「変革の10年」に足を踏みいれるための、コロナ禍から得た10の教訓 (※Otto Scharmer氏の2021. 5.21の記事翻訳)

Masumi Uchimura
May 22, 2021

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オリジナル記事

ベルリンの壁が崩壊する数ヵ月前の1989年、私は「世界の平和学習(Peace Studies Around the World)」というプログラムで、様々な国出身の学生グループを率いて東西ベルリンを訪れました。東ベルリンの人権運動や反体制運動のリーダーたちと議論をする中で私が目にしたのは、こうした運動の最前線にいた人たちでさえ、自分たちの行動がどれほど大規模な影響を及ぼすことになるのか、思いもよらなかったということです。彼らの運動は、最終的にベルリンの壁を崩壊させ、冷戦体制に終止符を打つことに繋がりました。私はこれまでの人生で、何度か地殻変動に匹敵するような変化を経験してきました。そこから学んだことは、地殻変動が起こる前は、そのような大規模な変化やシフトが起こると信じている人はほとんどいない、ということです。しかし、いったん起こると、多くの人が直後にその理由を説明し始めるのです。

画像 Kelvy Bird

私たちは今日、そのような瞬間を迎えているのではないでしょうか。多くの場所やネットワークにおいて、新たにまた大規模なムーブメントが起こりそうな気配がしています。それは社会構造を変えるだけではなく、人間の意識を変えるようなムーブメント、つまり制度や国境や境界を超え、深い目的意識に基づいて行動する能力を変化させていくムーブメントです。それは私たちに、変革を可能にする内面的な状態を作り出すよう求めてきます。それによって私たちは、再び互いと、地球と、そして進化しつつある人間の意識と根底から繋がり直し、現代の3つの大きな分断である、環境との分断、社会との分断、精神との分断を癒すことができるのです。

この動きの強力な前兆として、2019年に若者たちが主導した「フライデー・フォー・フューチャー」の抗議活動(1,400万人以上が街頭に繰り出した)、2020年の「ブラック・ライヴズ・マター」の抗議活動(米国だけで2,600万人が街頭に繰り出し、北米大陸史上最大の市民運動となった)、また過去数年間にラテンアメリカ、アジア、アフリカ、中東の多くの地域で繰り広げられた大規模な市民抗議活動などがありました。

今日ほとんどの人が「現在の社会モデルは崩壊していて、ますます破壊的な変化がやってくるだろう」という感覚を持っています。こうした人たちの多くは、個人的には別のシナリオを描き、別の未来を築く側に立ちたいと言います。しかし彼らの多くは「それを実現する方法がわからない」とも言うのです。現実的に思われる控えめな変化と、実現可能である大規模な変化との間のギャップを前に、私たちは自問するべきでしょう。今こそ、私たちが創り出したい未来を、より大胆にはっきりと思い描くべきではないか、と。

60年代の公民権運動、70年代の環境保護運動や女性運動、何十年、何世紀にもわたる先住民たちの民族運動や脱植民地化運動を始めとして、私たちは半世紀以上にわたり、社会的・地球的緊急事態への意識を高めてきました。しかしついに、これ以上先送りすることをやめなければならない時点に来たようです。もしもこの10年が、あらゆる「流れ」を最終的にグローバルな運動構築の大きな「川」に収束させる10年であるならば、もしもこの10年が変革の10年であるならば、コロナの混乱から何を学び、どのように前進していけばよいのでしょうか?

ここで、私たちの経験から浮かび上がってきたことを理解するのに役立つ10の教訓を紹介します。

(1)否認は戦略ではない。

コロナによる死者数が多い国のリスト上位は、米国、ブラジル、インド、メキシコ、英国です。こうしたリスト上位国は、言うまでもなく、2020年にポピュリスト(一部は権威主義)のリーダーたちが指導していた国です。トランプ、ボルソナロ、モディ、ロペス・オブラドール、ジョンソンなどで、パンデミックを軽視し、自国での公衆衛生対応を遅らせたり、阻害したりしました。例えば、コロナ感染者の急増にもかかわらず、ソーシャル・ディスタンスを取らずに大規模な政治イベントを開催するなど、いつも国民の健康より自分(または自分の政党)の支持率を優先させていた指導者たちです。

このような否認(自分が国に引き起こしているリスクの拡大に気づかない)と非感知(最もリスクにさらされている人々に共感しない)に基づいた行動は、そうした指導者たちにとって短期的には有効だったかもしれませんが、2021年の今日、「否認」が有効な戦略でないことは誰の目にも明らかです。

(2)今、崩壊が起こっている壁は、1989年のような2つの体制(システム)の間の壁ではなく、システムと自己の間の壁である。

現在生じつつある、自己とシステムの間の壁の崩壊には、大きく分けて3つの段階があります。1つ目は、昨年のコロナ禍の初期に起こりました。コロナ禍は、私たちがいかに相互依存しているのかについて、社会的にも生態学的にもあらゆることを教えてくれました。中国の武漢で何かが起これば、数週間から数カ月のうちに、世界中どこにいようとあらゆる人々に影響が及びます。ブラジルのマナウスで何かが起これば、程なくしてラテンアメリカのほとんどの地域に影響が及びます。例えば、アメリカでワクチンを買いだめしておけば、より安全に過ごせると考えている人(「アメリカ・ファースト」の考え方をする人)は、私たちがいかにつながっているのか、相互関係の実態を考慮に入れていないのではないでしょうか。

第2の壁は、ジョージ・フロイドの殺害後、ブラック・ライヴズ・マター運動が世界的な現象となったときに崩壊しました。この場合、壁の崩壊は思考レベル(相互依存の認識)ではなく、ハート(心、感情)のレベルで起こりました。突然、他の人が感じている痛みを感じることができたのです。それまでは、他の人に与えられた痛みであり、他の人が感じていた痛みで、自分のハートにまでは届いていませんでした。しかしジョージ・フロイド殺害の9分半の映像を見て、それが一変したのです。

第3の壁の崩壊は、1月6日の米国連邦議会議事堂への攻撃から始まりました。この崩壊は、社会としての私たちがどのような存在なのか、どのような存在になりたいのかという、存在の基盤に焦点を当てたものでした。世界最強の軍事大国が、2位以下の10カ国の総計を上回る防衛予算を持ちながら、数百人の反乱者たちに対して全く無力であることを目の当たりにし、システムの盲点を突かれたことに気づいたのです。この場合の盲点は、この国の国境の内側にあります。白人至上主義に基づく国内テロであり、当時の大統領が引き起こしたものです。これは、今まさに崩壊しつつある「第3の壁」であり、この壁の崩壊が、国境の外の問題にばかり目を向けていた私たちの目を、国境の内側から発生する問題にも向けさせました。

(3)人新世の時代、社会構造は固定されたものではなく、流動的である。

2020年版の国連人間開発報告書が詳細に説明しているように、人新世の時代、つまり人類の時代においては、問題の主な原因は、私たちと、大抵の場合時代遅れである私たちの思考・行動パターンにあるのです。そして報告書は、解決策を見出すためには、これらのパターンを再想像・再構築する能力が必要だと指摘しています。ここに、コロナからの次なる学びがあります。過去1年強の間に得た最も重要な教訓の1つは、私たち人間がいかに深く自分たちの行動様式を再構築できたかということです。社会の構造は固定されたものではなく、流動的なものです。地球上のすべての生物の中で、人間だけが意識的に未来とつながり、未来を作り変えることができます。私たちは、集団行動の古いルールを存続させるのか、変えていくのかを選べるのです。

私たちは、コロナ患者の上昇曲線を抑え始めたときにそれを行いました。過去40年間にわたってOECD諸国の経済行動を形成してきた新自由主義の正統性を超えた方法でコロナ禍に対応し始めたときに、それを成し遂げました。突然、ここに1兆ドル、あそこに2、3兆ドル拠出するということが可能になりました。突然、気候変動と戦うために、人やインフラへの大規模な公共投資が行われるようになりました。突然、世界のGDPの約70%を占める国々が、2050年までに二酸化炭素排出量をゼロにするという約束をしたのです。これは、ほんの1年前にはほとんどの人が不可能だと考えていた大きな変化の始まりです。

これらは、気付かれないことが多い、自然科学と社会科学の違いに目をむけさせます。地球上のどこにいても、りんごを落とせばそれは必ず地面に落ちます。地球上のどこにいても、重力の法則が作用するからです。しかし、社会科学の分野ではそうはいきません。比喩的に言えば、リンゴを手放したとき、それが下に落ちるのか、上に浮いていくのか、確実にはわからないのです。なぜなら、社会的行動を支配する不変性や「法則」は、ある特定の条件下でしか作用しないからです(これを「第3の変数」と呼びます)。第3の変数の中で最も重要なのは、人の意識です。あるシステムの中にいる人の意識が変わった瞬間に、その人の行動を支配するルールも変わり始めます。だからこそ、私は「U理論」をこのように要約したいのです。「私がこのように意識を向けるから、そのような結果が起こるのだ」と。私の傾聴の質によって、会話がどう展開していくかが変わります。私がどのように意識を向けるかによって、現実がどのように展開していくかが決まるのです。

この社会的可塑性(柔軟性)の原理を集団のレベル、つまりシステム全体に適用すると、社会構造は固定しているわけではなく流動的であり、人間の意識と同じように進化していく、ということがわかります。

(4)21世紀における真のスーパーパワーは、システム全体として意識と意図の軸を合わせる私たちの能力である。

21世紀の真の超大国は、アメリカでも中国でもありません。そうではなく、今世紀の真のスーパーパワー(強大な力)は、パンデミックとの戦いで私たちが上昇曲線を曲げた瞬間に姿を現し始めました。それは、ブラック・ライヴズ・マターや気候正義ムーブメントが、突然世界的な現象になったときに現れました。それは、人間が「気づきに基づく集団行動」を通して、意識と意図を再調整し、行動を変え始めるあらゆる場所に現れます。

意識が重要なのは、エネルギーが意識に従うからです。あなたが意識を向けた場所に、エネルギーは流れていきます。集合的な意識の光線を自分たち自身の方向に向け直し、他者の目や全体の目を通して自分たち自身を見始めた瞬間、硬直した社会の現実を溶かし、より流動的な状態にして、それを必要に応じて再想像・再構築することができるようになるのです。

(5)自分たちの影や盲点に向き合うことが、変革の源となり得る。

私たちを取り巻く壁が壊れ、崩れ続ける中で、またこの惑星の緊急事態となる課題が増え続ける中で、あらゆる組織のリーダーたちは、ますます集団の鏡(全体の鏡)をのぞき込まなければならない状況に面しています。このような状況で鏡に映るものは、時に受け入れがたいものであるかもしれません。それは、ソーシャルメディアに載せる「磨かれた良い自分」とは正反対のものだと考えて下さい。これまで盲点となって隠れていた自分の一部分に気づくかもしれません。例えば、ドイツ人にとってその気づきは、ホロコーストに関連するあらゆることから生じるかもしれません。アメリカ人にとってそれは、ネイティブ・アメリカンに対する民族虐殺、彼らの土地の盗用、アフリカ系の人々の奴隷化と関係するものかもしれません。中国人にとっては、ウイグル人イスラム教徒に対する民族抗争と関係があるかもしれません。西洋人にとっては、植民地主義とそれに伴うあらゆる形態の暴力(直接的、構造的、文化的)と関係があるでしょう。

パンデミックにより、衝撃的なレベルの社会的不平等への気づきが高まり、ブラック・ライヴズ・マター運動が、これらの不平等が植民地主義と集団的トラウマの歴史に根ざしていることを思い出させてくれる中で、私たちは、政治、経済、そして私たちの思考を脱植民地化するプロセスが、まだ初期段階にあることを実感しています。鏡をのぞき込んで、個人、組織、集団の過去の影をはっきり認識することは難しいことです。しかし、そこにこそチャンスがあります。私たちの集団的な経験の中で切り離された部分を認識し、統合することで、それらを変革と再生の源泉に変えることができます。私の同僚であるアントワネット・クラツキーが言うように「痛みを可能性へ 」と変えていくことができるのです。

(6)向かっていく:システムを抱き入れることなくして、そのシステムを変革することはできない。

以上のことを、ひとつのシンプルな違いとしてまとめてみましょう。障害が生じると、私たちには選択肢が与えられます。それに向かっていくのか、そこから背を向けるのか。つまり直面する課題に立ち向かうのか、それとも背を向けるのか。向き合って現実を受け入れるのか、背を向けて現実を否認するのか。

図1 : 向かっていくか背を向けるか : プレゼンシングかアブセンシングか

図1はその違いを表しています。向かっていくプロセスは、図の下半分の弧に描かれています。これは「観る」「感知する」「プレゼンシング(訳注:存在を意味するプレゼンスと感じとるという意味のセンシングを合わせた著者の造語)」というサイクルです。一方、背を向けるプロセスは上半分の弧に描かれています。「否認する」「感知しない」「妄想する」「アブセンシング(不在化)」というサイクルです。

向かっていくことが重要なのは、自分がシステムを受け入れない限り、そのシステムを変革することはできないからです。世界に目を向け、受け入れるというあり方は、3つの道具を用いることで機能するようになります。それは開かれた思考・開かれたハート・開かれた意志、別の言い方をすると好奇心・思いやり・勇気です。一方、世界から目を背けて否定するあり方は、これらの道具を凍りつかせてしまい、その結果、思考・ハート・意志が閉じてしまいます。つまり、疑い、憎しみ、恐れが生じるのです。

図1は、集合的に何らかの形で起こっている、システム変化の深い領域をとらえています。これは、私たちの時代の、より深い進化のパターンを読み解くのに役立つツールです。私たちはシステム全体として、ほとんど誰も望んでいないような結果を生み出し、それが、大規模なレベルの破壊と自滅を引き起こしています(不在化の弧)。不在化の弧は、私たちが現在、惑星規模で生じさせているこうした破壊的な力の内実を表しています。このサイクルのさらに上方向の段階には次のようなものがあります。

・ 否認:起こっていることを観ない(コロナや気候変動の否定に見られるように)

・感知しない:自分が観ているものとの共鳴を感じない(ソーシャルメディアが反響室のように作用して、偏った観点が増幅される)

・不在化:自分の最高の未来の可能性に繋がらない(うつ病や不安障害の蔓延に見られるように)

・ 非難:内省したり、他者の目を通して自分を見たりすることができない(現在の私たちの会話の多くがそうであるように)

・破壊:自然、人間関係、社会構造、そして最終的には自己の破壊

変革の10年に生きるということは、こうした「不在化」の現象に決して事欠かないということです。政治の闇金に煽られ、また怒りや憎しみや恐怖を助長することに依存した大手テクノロジー企業のビジネスモデルによって増幅されたこうした現象は、ほとんど制御不能な状態に陥っています。このような現象に対して、私たちはどのようにして変革を起こすことができるのでしょうか。どうすれば、プレゼンシングの深い弧を活性化できるのでしょうか?

このような深い学びとリーダーシップの能力を活性化させるには、外的な脅威と戦うのではなく、生物学者の故ウンベルト・マトゥラーナが「愛」と呼んだものを体現し現実を受け入れるという、内的な姿勢を育むことが重要です。マトゥラーナの言う「愛」とは、「出現させること」です。どうすれば、個人や大きなシステムにおいて、このような変革をもたらす内的状態を養う方法やツールを開発できるのでしょうか。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とプレゼンシング・インスティテュートのアクション・リサーチャーとして、私は過去20年間にわたり、多くの実践的な実験の場でこの問題を探求してきました。最後に紹介する4つの学習ポイントは、そのような行動研究に基づいています。

(7)社会の進化には、私たちのOS(オペレーティング・システム)のアップグレードが必要。

地球の緊急事態が要請しているエゴからエコへのシフトには、社会のOS(オペレーティング・システム)のアップグレードが必要です。図2は、健康、学習、食物、金融、ガバナンス、開発を例に、その進化のアップグレードの段階を示したものです。

図2 : システム進化の4つの段階、4つのOS

これらの分野は現在いずれも、大部分が2.0(生産と効率性重視)と3.0(成果とユーザー重視)をミックスした活動に基づいた、現実の状況に直面しています。しかし、アインシュタインの言葉を借りれば、2.0や3.0の考え方や活動方法では、4.0の課題を解決することはできません。私たちの時代の真の発達課題は、2.0や3.0の状態から、いかに4.0のOSに移行することができるか、そしてそうすることで、いかにあらゆる要素においてエコシステム意識と共創性を活性化することができるか、ということです。

OS 4.0への移行は、遠い夢ではありません。夢想的な空論でもありません。OS 4.0への移行は、私たちのコミュニティの中で起こっています。ただしそれが起こるのは、大きなシステムの周辺部において、であることが多いのですが。4.0の運営方法は、まず地方に現れ、後になって国や国際的なレベルにまで現れてくる傾向があります。それらは、地域支援型農業(Community Supported Agriculture)や、村、都市、地域レベルにおける、さまざまな共同活動の中に見られます。また、崩壊しつつあるシステムの隅っこに現れる傾向があり、それがのちのち世界の政治の中心となっていくでしょう。つまり、未来はすでに存在していて、私たちはそれに意識を向ける必要があるのです。パリ協定や国連のSDGs「持続可能な開発目標」は、グローバルレベルでの4.0ガバナンスに向けた最初の実際的なステップを、具体化した例です。

4.0の実践例の中でも特に目を引くいくつかを、既に先住民族たちは共通して実践してきました。私の同僚で、タートル・アイランド・インスティテュート(Turtle Island Institute)の創設者であるMelanie Goodchildは次のように述べています。

「入植者との接触以前、彼らの植民地主義が私たちの生活に大打撃を与える前に、私たちはもう4.0を持っていました。ですからOS1.0から4.0への移行は、私たちにとって進化や直線的な発達ではありません。なぜなら、かつて私たちの祖先は皆、土地のものを食べて暮らしていたからです。むしろこれは、4.0を支える価値観への回帰や再認識なのです。」

(8)変革の旅にはそれをサポートするインフラが必要。

それぞれの変革の旅には、サポートインフラのイノベーションが必要です。経済を変革し、民主主義を進化させ、学習システムを再想像するためには、インフラにイノベーションを起こす必要があるのです。

図3は、現在の状況を、ポスト真実(偽情報と疑念の拡散)、ポスト民主主義(分離の構造の増幅)、ポスト人間性(狂信と恐怖を煽る)の観点から述べた内容をまとめたもので、このような状況を変容させるために私たちが養うべき、より深いリーダーシップと学習能力を示しています。

・一人称的、二人称的、三人称的アプローチを統合したリサーチにより、科学の実践を深める。

・ 対話のための新しい市民インフラを構築し、周辺から自分たちのシステムを感じとることで、民主主義の実践を深める。

・行動への信頼を活性化することで、起業家精神をベースにした実践を深める。

図3 : 現在の3つの状態、変革のための3つの能力

このような深い学習能力やリーダーシップ能力は、こうしている今も、数え切れないほどのコミュニティや共同イニシアチブの中で生まれ、共に開発されています。例えば、プレゼンシング・インスティテュートのu.labアクセラレーター(促進プログラム)では、今年338のチームがそれぞれのコミュニティに変革をもたらす取り組みを行っています。インドのマノジ(Manoj)は次のように語っています。

「これらのプロジェクトが形になってきたとき、人々がそれぞれ自分たちのコアチームを作り、ムーブメントが起こり、生まれてきたリーダーシップを見て、ああ、これこそが私たちが世界にもたらしたい変化を促進するものだ、と感じたのです。」

(9)変革の可能性をフルに実現するにあたって最大の障害は、私たち自身の内面にある。

経済を変革し、民主主義を深化させ、学習環境を再構築する上で、最大の障害となるのは何でしょうか。それは、社会に対する支配力を強めている大手テクノロジー企業(別名:監視資本主義)でしょうか?政治プロセスを何度も脇道へそらす闇のお金でしょうか?最も重要な障害は何でしょうか?私は、どちらも最大の要因ではないと直感しています。上記すべてを変えるための最大の障害は、疑い、憎しみ、恐れといった私たちの内なる声なのです。

私が興味深いと感じるのは、その懐疑心の一部が意図的に引き起こされているように思われることです。例えば数年前、化石燃料を資金源とする気候変動否定産業は、炭素税を支持しないように米国の世論を誘導することに成功しました。気候変動否定産業が採用した主な戦略は、気候科学の妥当性に対する疑念を抱かせることでした。それが功を奏したのです。つまり、疑念の声は、それぞれの否定的な 「業界 」によって意図的に増幅させることができるのです。憎しみや恐怖の声を増幅させることに関しては、フェイスブックのようなソーシャルメディア企業が1兆ドル規模の帝国を築き、憎しみ・怒り・恐怖の感情を活性化させることでユーザー・エンゲージメント(ユーザーの参加)を最大化することに大きく依存したビジネスモデルを採用しています。

このような状況を変えるには、単に問題にお金を投じるだけでは不十分です(グリーン・ニューディール政策に触発された1兆ドル規模のパッケージは素晴らしい第一歩ですが)。これからの変革の核心は、現代社会の主要なサブシステムを再想像するために、まったく新しい思考パラダイムを用いることにあります。それは次のようなものです。

I. 経済を「エゴ」から「エコ」へと転換する。

・GDPから地球と人間の幸福へ

・直線的な物質の流れから循環的な物質の流れへ

・雇用から使命感ある起業家精神へ

・搾取型資本から再生型資本へ

・意識や創造性を低下させる技術から、意識や創造性を高める技術へ

・私有財産から共同利用・共同所有へ

・意識を低下させるメカニズムから意識を活性化させる協調とガバナンスのメカニズムへ

II. より分散的、対話的、直接的なものにすることで、民主主義を深める。

・闇の金を廃止する

・ フェイスブック、グーグル、アマゾンのような企業が永続化させている認識格差の撤廃

・分散型、対話型、直接型のガバナンスを支える新しい市民インフラの構築

III. 頭、ハート、手を統合することで、学習環境を再想像する。

経済を変革し、民主主義を発展させることは、教育の場だけでなく、セクターやシステムを超えて、全人的にそしてシステム全体で学ぶための新しい学習環境を構築できてこそ可能となります。

それが、最後の問いへと繋がります。

まぁ、こうしたことの多くが可能かもしれないと仮定してみよう、と言う人もいるかもしれません。

しかし正直なところ、このような壮大なスケールの変革が本当に可能だと思いますか?実際には何が必要なのでしょう?

(10)最も重要なレバレッジ・ポイント(てこの支点)は、変革のリテラシー(知識や能力)を広めること。

ルネッサンスは、200人以下のコア・グループによってもたらされたと言われています。その活動は世界を一変させました。今日、私たちの多くが感じている、大きな変革の可能性に火をつけ実現させるためには、何が必要でしょうか。

私は、3つか4つのことが必要だと考えています。まず、インスピレーションを持った人々が必要です。200人以上は必要かもしれません。しかし、本当に情熱を注ぐ人たちで構成された比較的小さなグループがあれば、ほとんどどんなことも可能です。最も適しているのは、もちろん若者たちです。なぜなら、Z世代と呼ばれる若者たちは、未来への思いが最も強く、過去への執着が最も弱いからです。しかし今日の状況では、世代を超え、セクターや地域を超えた強力な変革者のネットワークを構築することも必要です。

第2に、場所とプラットフォームが必要です。公民権、ジェンダー、平和、環境など、社会に真の変革をもたらしたあらゆる運動には、それを支えるインフラがありました。ローザ・パークスやハイランダー・フォーク・スクールがそうであったように、東欧の人権運動でも、教会を利用してこうした支援インフラを築くことが多かったのです。

そして3つ目は、変革を実現させるための技術が必要だということです。ローザ・パークスの場合、それは非暴力抵抗の方法とツールでした。それに相当するような、今日機能するものは何でしょうか?それは、私たちが自分自身と、互いと、そして地球と、根底から再びつながり直すことを可能にする、意識に基づいた一連のソーシャル・テクノロジーであると考えます。垂直方向の(訳注:1.0から4.0への)変革リテラシーを構築するための基礎となる、手法やツールです。それは、2.0や3.0から4.0の組織へ移行するという課題に直面したとき、非常に必要とされるものです。この変革リテラシーは、現在の教育システムの盲点となっています。その盲点を、実践的な方法やツールで解決することが、3つ目の要素となります。

そして4つ目の要素は、4.0レベルのイノベーションの未来を模索し実行することで刺激を与えるような、生きた実例や先駆的な組織のプロトタイプをグローバルに分散し、ネットワーク化することです。

この4つの要素を足し合わせると、何が見えてくるでしょうか。それは、新しい大学、新しい学校のプロトタイプです。変革の大学・学校が重点を置いているのは、現在崩壊しつつある社会構造を再構築しながらも、地球と、互いと、そして進化しつつある自分自身とのつながりを根底から取り戻すための方法・ツールへのアクセスを民主化することです。このような「変革の学校」を実現させ、大規模に再現できるようにすることが、今、最も重要なことだと私は考えています。

過去数週間から数ヶ月の間に、プレセンシング・インスティテュートの同僚たちと私は、パリにあるOECDの教育部門の責任者を始め、政策立案者、大学のリーダーやイノベーターなど、教育界の多くのイノベーターたちと出会いました。彼らは皆、今世紀における人間の繁栄のための教育がどのようなものであるかを大胆に再想像することに、刺激を受けていました。また私たちは、国連のシステムの中の何百人もの変革者たちと、持続可能な開発目標(SDGs)の実施を加速させるために協働してきました。こうした相互に関連するあらゆるイニシアチブに息づく、根本的な誠実さと人間性に、私たちは触発されています。参加者のひとり、バルバドスのChristineが、混乱に面した自身の現在の体験ついてこう述べています。

「良いことも悪いことも含め、すべてが結びついているのがわかります。私たち全員が危機にさらされているのは、全員をそれまで根を下ろしていた空間から押し出し、集団の真実を明らかにし、集団としての変化を促すためだと感じます。痛みを伴うけれども必要な変化がこれから起こるのを、私たちは避けては通れないと感じています。」

この先の旅は容易ではないでしょう。しかし、2つの動きを結びつけることができれば — — 世界中のさまざまな草の根の取り組みから生まれつつあるボトムアップの動きと、国連・高等教育機関・ミッションに基づいたビジネスなど、既存の組織を内側から変えていこうとするトップダウンの取り組み、この2つの動きを結びつけることができれば、これから先の変革の10年で、あるいは20年で、できないことはほとんどないと思うのです。

これらのアイデアや実践についてさらに知りたい方は、プレゼンシング・インスティテュートのサイトをご覧になるか、もうすぐ開催されるグローバル・フォーラムに参加されてはいかがでしょうか。

画像を作成してくれたKelvy Birdさん、草稿にコメントしてくれたBecky Buellさん、Rachel Hentschさん、Antoinette Klatzkyさん、Katrin Kauferさん、Eva Pomeroyさんに感謝を捧げます。

★(訳者より)訳文を丁寧に読み込み、的確な校正をして下さった Tae Abion さんに、心から感謝致します!

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