夜明け前が一番暗い。トランプ後のトランプ主義をどう変容させるか:ポスト真実主義、ポスト民主主義、ポストヒューマニティーについて。by OTTO SCHARMER(オットー・シャーマー)

(オリジナル記事 https://medium.com/presencing-institute-blog/the-darkest-hour-is-just-before-the-dawn-cc4df0749108

オットー・シャーマー 2020年10月30日 Mediumブログ翻訳

訳(Tae Abion、内村真澄)

来週の米国の選挙は、米国だけでなく地球規模の分岐点となる気がします。その影響は米国を越えて広がることでしょう。そこには、外的な側面と内的な側面が存在します。外的な側面というのは、ホワイトハウスの主を国民に問うというものです。しかし、それ自体は大きな変化ではありません。内的な側面とは、ハートの変化です。この決定的な10年間を前進していくにあたり、私たちが行動する源となる内面的な場所の変化なのです。

Figure 1: Three Conditions of Trumpism, Three Capacities for Transforming Them (by Kelvy Bird)

トランプ政権が予想された通りに否定と自己破壊の道を歩み続けているのを見ると、アブラハム・リンカーンが言ったとされる言葉が思い起こされます。

米国の選挙の結果がどうなるのか、あるいはその後に混乱が起こるのかどうかは誰にもわかりませんが、私がいい感触を持っている理由を述べましょう。私には、この最終的な状況は、過去3年以上の間に我々が見てきたことの縮図のように感じられます。米国の民主主義の核となる機関が―そして連帯とガバナンスの国際的なシステムが、折れ曲がりそうになり、さらに折れそうになり、しかし折れはせず、最終的には跳ね返って良い方向に前進しようとしているのです。

確かに、一時的にであれば人々を欺くこともできますし、否定することもできます。しかし、もし誰かが自身と国家を現実に反した道に据えるならば(それがまさにトランプ主義者のコロナに対する態度だったわけですが)遅かれ早かれ現実が反撃してくるでしょう。そして、その瞬間が訪れようとしているかのようです。

この前例のない歴史的瞬間に、地球上でここアメリカに住んでいると、文字通りあらゆる場所で張りつめた空気を感じます。私はここボストンでそれを感じていますが、世界中の友人たちもまた、それぞれの居場所で同じ空気を感じていると言います。

「今回の選挙は記念碑的なものとなるだろう」と、ジャカルタから来た同僚のFrans S.が最近言いました。「私はこの選挙の一部始終を見ている」と、英国に住むザンビア人の同僚マーティン・カルング・バンダは言いました。これはアメリカの民主主義に対する国民の意思表示であるばかりでなく、私たちの人間としての強い願いに関する投票であるように感じます。

2020年は、私たちの多くにとって非常に暗いものでした。しかし、夜明け前が一番暗いというのが本当なら、この瞬間には深い可能性が秘められていることになります。国連の創設者たちが新世代の多国間機関を構想し始めたのは、おそらく前世紀で最も暗い時期であった1941年のことでした。そして過去75年間、国連は世界中で国際的な協力と開発を共同で形成してきました。今、私たちが再びそのような暗い時代を生きているとすれば、今世紀の夜明けはどのような姿を見せてくれるのでしょうか?

このような質問をしたからと言って、私は必ずしも来週の選挙に特定の結果を想定しているわけではありません。トランプ氏がコーク兄弟その他の化石燃料関連の億万長者たち、またマーク・ザッカーバーグのようなIT企業の大物たちから支持を受けていること、そして共和党が大規模な選挙抑圧活動を行っていることを考えると、どんな結果もあり得ます。しかし私は、立ち直りと新たな一日の夜明けが、来週の選挙の圧勝と共に始まることを信じています。この国のムードは、ここ数ヶ月で大きく変化したからです。

一つには、人々が傷ついていることがあります。5月以来、800万人のアメリカ人が貧困に陥りました。子供のいる世帯の7つに1つは、過去7日間に十分な食料を得られなかったといいます。6月には成人の40%以上が、メンタル・ヘルスの問題を抱えていると報告しました。また、私たちは制度的な人種差別に対する人々の認識が大きく変化するのを見てきました。そのシフトの一つの指標として「アフリカ系アメリカ人に対して多くの差別が存在する」とするアメリカ人の割合が、2013年の19%から2020年には50%に増加していることが挙げられます。これはまるで地殻変動のように感じられます。

これで十分なのでしょうか?それとも、アメリカは混沌とした暴力と内戦の時代に沈んでいくのでしょうか?この瞬間、どちらの可能性も非常に現実的であり、まだ全くわかりません。特に、選挙人団制度や勝者が全ての票を得るといった時代遅れの制度が、アメリカのような国を少数派支配の奇妙な状況に追い込んでいるからです。

このコラムは、深呼吸をし、リラックスして、夜明けの視点から今の瞬間に注目してみることを提案します。つまり、生まれようとしている未来、この瞬間が招き入れようとしている変革の視点からです。私たちが本当に再構築したいのであれば、そしてこの瞬間に過去とは異なる未来を生み出したいのであれば、私たちは今、どのような核となる能力を築き育成する必要があるのでしょうか?

第一に、ドナルド・トランプが敗北したとしても、彼を生み出した構造であるトランプ主義は消えずに残る可能性が高いということが挙げられます―その根底にある思考の構造やパラダイムを変革しない限りは。私たちは常に、トランプは単なる症状であり、コロナ同様奇妙な「贈り物」であることを知っていました。何が壊れているかに気づかせ、私たちが地球やお互いを大切にする必要があると気づかせるための贈り物です。しかしそれは、根本的な構造を変えるという本当の仕事は、まだ始まったばかりだということを意味します。

トランプ主義という世界的な現象を生み出す鍵となっている3つの条件は、おそらく以下のものです。

- ポスト真実主義の政治:虚偽情報、疑念、否定を拡散する

- 分離の構造:二極化、部族主義、憎しみを生み出す

- 恐怖心を煽る:不安・抑うつ・恐怖心を増幅させる

Figure 2: Three Conditions: Post-Truth, Post-Democracy, Post-Humanity (by Kelvy Bird)

これがポスト真実主義政治の本質です。トランプ大統領自身の行動と、気候変動否定産業の2つの例を挙げることができます。「ワシントン・ポスト」の事実チェックサイトによると、トランプ大統領の在任中の嘘及び誤解を招く発言が、今年8月に2万2000回に達したそうです。トランプ氏は2017年1月に大統領に就任し、1日平均6回の嘘をついていました。しかし今年の8月には、うその数は1日あたり平均50回を超えました。

皆さんがこれを読んでいる頃には、トランプ氏の就任以来の嘘はおそらく25,000回という記録を超えているでしょう。

これら全ての嘘は彼を傷つけたのでしょうか?ほとんどの場合それほど傷つけていません。トランプ氏の最も熱烈な信奉者の目には、傷ついたとは映っていません。真実の無知や否定は、ポスト真実主義政治の特徴なのです。

2つ目の例である気候変動の否定は、コーク兄弟その他化石燃料産業からの5億ドル以上の資金によって煽られています。彼らの戦略的な目的は、疑念の種をまき、それを増幅させることです。直接的に、科学的事実に反証したり、世界の気候科学コミュニティーの見解を否定したりすることはできませんが、自分たちが所有しているメディアや影響力を持つメディアを介して疑念を増幅させることで、科学に疑問を投げかけることができます。彼らはまさにこうしたことを行ってきました。気候変動否定産業は、10年足らずの間に米国の世論を気候変動対策(例えば、炭素税推進)から遠ざけるよう働きかけました。彼らの戦略は成功したのです。

今日の混乱と集団的否定状態の高まりは、ポスト真実主義の直接的な結果です。「誰も何も信用できない」という集合的な感覚があり、これが「誰も何かを知ることなどできない」という感覚に繋がっているのです。つまりそれは、非リベラルまたは反民主主義的な勢力が、全体を犠牲にして少数だけに益する政策を実行するのに完璧な環境なのです。例えば、数兆ドル規模のトランプ減税は、その大部分が億万長者に恩恵を与えるものとなっています。また、環境保護庁を解体するために石炭ロビイストをその長に任命したこと、コロナに関する偽情報によって二極化を作り出したことなどが挙げられます。

この状況から生じる人々の行動は、集団的な否定です。例えばトランプは、新しい感染者数が過去最高記録を複数出したその週に、パンデミックは「峠を越えつつある」と主張しました。こうした否定によって、アメリカの一般市民やワシントンDCの政治家たちは、単純に点と点を結びつけることが出来なくなっています。西部での終末を思わせるような火事と南東部での記録的な数のハリケーンを、その前提である地球温暖化と結びつけることが出来なくなっているのです。これが2020年における集団的否定の姿です。私たちは今、目を覚まし始めているでしょうか?

アメリカとブラジルにおけるパンデミックの壊滅的な結果が、私たちに何かを教えることができたとすれば、それは「否定は戦略ではない」ということです。

否定状態が長引くほど、墜落の衝撃は激しくなります。トランプ氏はこれまで、苦難のほとんどを他の人々(その多くが有色人種)のせいにしてきましたが、今回の選挙ではリンカーンが指摘したように、常に全ての人々をだますことはできない、ということを思い知るのではないでしょうか。

分離の構造は、二極化、部族主義、憎悪を増幅させます。ポスト真実主義の政治と同じように、このような対立の構造は世界中で目にされています。多くの社会はすでに、分極化した敵対的なコミュ ニティに分裂していて、もはやお互いに話し合うこともできなくなっています。

こうした分離構造の具体的な例として(1)ソーシャルメディアを通じて生み出されるフィルターバブル、(2)米国における少数支配の問題、の2つが挙げられます。

フィルターバブルは、私たちのソーシャルメディアのフィード内のコンテンツを決定するアルゴリズムから発生します。Netflixのドキュメンタリー “The Social Dilemma “及び “The Great Hack “を観ると、それがはっきり分かります。これらのアルゴリズムは、憎しみ、怒り、恐れの感情を活性化させることで、ユーザーのエンゲージメントを最大化する(画面に釘付けにする)ように設計されています。

ここでより深い問題となるのは、ハーバード大学のショシャナ・ズボフが 「認識論的不平等 」と呼ぶものです。

ソーシャルメディア企業とそのユーザーは、一方通行のマジック・ミラー越しにお互いを見ているようなものです。ソーシャルメディア企業はユーザーの全てを見ることができますが、ユーザーは企業が自分の個人データを使って何をしているのか、全くわかりません。これが今日のソーシャルメディアの現実です。

元グーグルの倫理デザイナー、トリスタン・ハリスは言います。

一方通行のマジック・ミラー、つまりコントロール・ルーム内の少数の人々と、コントロール・ルームの外にいる何十億人もの人々との間にある巨大な力の非対称性は、ユーザーのデータを所有し、高度なデータ分析の助けを借りてそれを利益に変えているビッグテックとビッグデータ企業による違法な権力掌握の結果です。彼らはユーザーの行動を効果的に一斉に操作することができ、それを価値の高いサービスとして販売しているのです。

このビジネスモデルは、フェイスブックやグーグルのような数兆ドル規模のビッグテック企業にとってはうまくいっていますが、それ以外の私たち、つまり社会全体にとってはうまくいっていません。有毒な副作用としては、民主主義の侵食、独立したメディアの消滅、移民に対する憎悪犯罪や暴力の増加、特に若者の間での驚くほど高いレベルのメンタル・ヘルスの問題が挙げられます。ここで核となっている問題は、「他者のせいにする」という態度が大量に横行していることです。

では、テクノロジーが問題なのでしょうか?そうではありません。問題なのは、テクノロジーをデザインし、普及させ、展開する際の我々の意図と意識なのです。

少数支配の問題も、二極化と過激化を助長するもう一つの要因です。

トランプ大統領は2016年の総得票数では250万票差で敗れたにもかかわらず、大統領になりその後3人の判事を最高裁に任命しました。その3人の判事は、2016年と2018年の両方の年にやはり総得票数では民主党に敗れたにもかかわらず上院の多数派となった共和党によって、承認されてしまいました。

これらは有権者の多数派の意見や感情を無視した、重大な結果を引き起こしています。どうしてこのようなことが可能となったのでしょうか?なぜ共和党のような政党が、アメリカの有権者の大多数に訴えることすらせずに国を支配するということが可能なのでしょうか?これが、二極化と部族主義を助長する方程式のもう一つの要素なのです。

皆さんは次のように思われるかもしれません。それはアメリカだけの問題で、私の国はそんな風に機能してはいない、と。しかし、私はその考えに異議を唱えたいと思います。少数による支配は、今日、民主主義国家を含む多くの国で見られます。政治プロセスがたびたび特定の利益団体の巨大な影響力に乗っ取られ、しばしば有権者の大多数の意見や利益に反する決定をもたらしています。今日のアメリカは、他の多くの場所にも存在する状態の、非常に顕著な例に過ぎません。

政治やビジネスが恐怖、怒り、狂信を増幅させると、人々は他の正常な感情を感じなくなる傾向があります。同僚のアントワネット・クラツキーは言います。

「自分に対し感じることを許さないと、私たちは思いやりを失い、人間の自由と苦しみに繋がることが出来なくなってしまいます。感じるという人間独自の能力を使うと、私たちは世界の可能性から力を得ることが出来ます。だからこそブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)はとても重要なのです。人間の命の重要性を思い出させてくれるからです。特に、私たちが人間性をシャットアウトしてしまうと真っ先に感情のアンテナからシャットアウトされてしまう命たちのことを、です。」

2016年のドナルド・トランプ氏の当選は、恐怖・怒り・狂信を煽る戦略の、顕著な例です。もう一つの例は、不確実性・ストレス・不安によるメンタルヘルス問題の蔓延です。

前述したように、今年の6月、アメリカの成人の40%以上がメンタル・ヘルス上の懸念について報告しています。また、アメリカの若者の4分の1以上が、自殺を真剣に考えたことがあると答えています。若者の4分の1以上です!

ここで問題となるより深い現象とは何でしょうか?怒りと恐怖を増幅させる戦略が、なぜこれほど成功するのでしょうか?私たちの多くがうつ病や不安症に悩まされているというのは、何を意味するのでしょうか?

これらの複雑な疑問については、もちろんもっと深く掘り下げていく必要がありますが、私には少なくとも2つのことが明らかになってきています。1つ目は、研究によると、恐怖・抑うつ・不安障害はソーシャルメディアの使用に大まかに比例して増加するということです。ソーシャルメディアを消費すればするほど、特に若い人においてリスクが高くなるということです。

もう一つは、不安や恐怖に対抗するためには、意義や目的を見出し、自分がその目的を実現するための主体性を持っていると自覚する必要があるということです。これが、私たちが行動への信頼と呼んでいるもので、以下でさらに説明していきます。

図3は上記を要約したものです。

Figure 3: Three Conditions of Trumpism: Post-Truth, Post-Democracy, Post-Humanity

私たちの時代の3つの状態 ―ポスト真実主義、ポスト民主主義、ポストヒューマニティーは、私たちを集団的否定、非感知、アブセンシング(不在化)のパターンへと導き、最終的には自己破壊への道へと誘います。

図4の下半分は、このコラムの要点をまとめたものです。

このような現状を変えるために私たちは、3つの核となる能力を活性化し、具現化する必要があります。

- 謙虚な姿勢で聞く:現実が私たちに語りかけてくるようにする

- つながりの構造を築く:ソーシャル・フィールド(社会の場)を共に感知する

- 行動への信頼を活性化させる:未来の領域から行動する

これら3つの能力は、今日求められている変革リテラシーの重要な要素です。

変革リテラシーとは、単に現状を最適化させるだけでなく、それを超えた方法で破壊的な課題に対応するシステムの能力です。それは、出現しようとしている未来を共に感知し、共に形成していく能力です。

その能力は、深い傾聴、ソーシャル・フィールド(社会の場)を感知すること、そして全体の共通理解と意識から流れ出る集団行動を促進するような、行動への信頼の活性化に基づくものです。

Figure 4: Three Capacities for Transforming Trumpism

ポスト真実主義を変容させるには、私たちは謙虚さを持って傾聴し「データが私たちに語りかけてくる」よう判断の習慣を保留する必要があります。これは私のメンターであるエド・シャインが言っていたことです。あるいは、ジョージ・ポーがノラ・ベイツソンの仕事を参考にして提案したように「温かいデータが我々に語りかけてくるようにする」のです。今回のパンデミックは、この認識論的な謙虚さを強力に教えてくれました。科学を無視し、ウイルスが教えることに耳を傾ける謙虚さを欠いた男たちの率いる国では、例外なく彼らに託された経済と市民に大惨事が及ぶ結果となったのです。

米国では、パンデミックによる経済的損失が16兆ドルにのぼると、最近算定されました。これは、この深い人間の能力を育成してこなかったことの代償です。

リーダーシップの大きな失敗のほとんどは、根本的に同じことに起因します。リーダーが直面する環境の変化との繋がりを失っていること、つまり耳を傾けることを怠っていることです。

ポスト真実主義の世界において、私たちは積極的な傾聴の美徳を取り戻すだけでは十分ではないのです。私たちは3つのレベルで傾聴力を養う必要があります。第1に、事実に基づいたリスニング:自分の考えを反証するデータに気づき、何が驚くべきことか、何が新しいことかに気付く。第2に、共感的リスニング:自分の視点やサイロ(特定の専門領域)からの視点だけではなく、自分のバブル(殻)の外側から、他人の視点から状況を感じ取る。そして3つ目は、生成的なリスニング:静寂の場から聞く、つまり私たちの意識を、新たな未来の可能性が現れ降り立つのを可能にする保持空間として機能させるのです。

ポスト真実主義の世界で活動するリーダーおよびチェンジメーカーたちは、自身にこう問う必要があります。現実がどうあろうと、私は深い謙虚さを持って聞くことができるだろうか、私は自分のバブル(殻)の外から聞くことができるだろうか、と。

「分離の構造」として描写した状態を変革するためには、新たな「繋がりの構造」を共に想像し、築き、育成することが必要です。その構造によって、多様な参加者が制度・利害・政治的見解・世界観の境界を越えて繋がる空間を保持することが可能となります。このような新しい市民インフラを構築し、民主的な癒しと再生のための深い能力を育成していくことは、現代における最も重要な課題であり、機会であると言えるでしょう。

皆さんがどのような組織でどのような仕事をしていても、成功するためには、共に働く多様なステークホルダーをまとめあげることが必要となるでしょう。これは、私がここ数年一緒に仕事をしてきたビジネス、政府、NGO、国際機関のリーダーたちにも言えることです。

では、この「ネットワーク・リーダーシップの課題」とは何でしょうか?それは、非常にシンプルな事実に集約されます。一緒に仕事をしているパートナーやステークホルダーの視点から、現実がどのように見えるかを感じ、捉えることができないのであれば、それはナビゲーション・システムのない飛行機を操縦しているようなものです。この課題に対応するためには、組織の「ソーシャル・フィールド」から見て、感じとることが必要です。ソーシャル・フィールドとは、あなたのバブル(殻)やサイロ(特定の専門領域)の視点からだけではなく、あらゆる方向から感じとっているシステム、つまりあなたの協力者全体のことです。

私たちは皆、ソーシャル・フィールドの文脈の中で活動しています。誰もがそうです。私たちが自身に問いかけなければならないのは、次のようなことです。私たちは自分たちのソーシャル・フィールドを、端っこにいる最も疎外されている人も含めて、自分たちのフィールドにいるすべての協力者の視点と経験から、真に感じ取ることができているだろうか。

過去10~20年の間に「フード・デザート(食物の砂漠)」という言葉が使われるようになりました。手頃な価格で栄養価の高い食品、特に果物や野菜を手に入れるのが難しい地域を指すのに使われています。同様に、私たちは今日「ホールディング・スペース・デザート(保持空間砂漠)」と呼べるような地域を目にすることが多くなっています。市民や施設が、深いレベルの傾聴や会話を持つ場を失った地域です。独立系地域メディアの喪失とコミュニティーの二極化は、このような状況が蔓延していることを示す2つの兆候に過ぎません。

ほとんどの社会が直面している重要な問いは、以下のものです。環境的、社会的、文化的共有物に関して、深い絆と共創的な関係性を生み出すための市民インフラをどのように構築・再構築していくことができるだろうか?イデオロギーではなく、私たちが直面している現実世界の課題に対して、どうすればそのような深い関係性を築くことができるのか?そしてどうすればこうしたチェンジ・メーカーたちのエコ・システムをパワフルな世界規模のムーブメントに結び付けることができるのか?例えば気候変動関連の破綻など重要な課題に対し、新たな形の共生と協働を生み出すようなムーブメントに。

第3の現状である「ポストヒューマニティー:狂信と恐怖を煽る」を変革するには、人間であることの意味をより深いレベルで活性化させる必要があります。それは、現れようとしている未来を感知し、それを実現させることのできる私たちの能力です。人間は、未来を予測し、個人的・集団的な行動パターンの変革に取り組むことができる地球上で唯一の種族です。今年のパンデミックの場合のように、何かに集団的に意識を向ければ、私たちは集団行動の道筋を曲げることができます。意識に基づく集団行動のこの能力は、私たちの人間性の本質から機能しています。

2020年、どこにいるかにかかわらず、皆さんは混乱の感覚を味わったのではないでしょうか。何かが終わり、死にゆき、別の何かが生まれようとしている感覚です。終わり、死にゆくものの方が、生まれようとしているものよりも捉えやすいものです。一番はっきりしないのは、ここからあそこへどうやって移るか、現れようとする未来をどのように感じ、実現させるのかということです。現状を超えて、出現しつつある未来を実際に再形成するためには何が必要なのでしょうか?

そのためには深い意識のシフトが必要です。疑念と虚偽情報(閉ざされた思考)、分離の構造(閉ざされたハート)、恐怖を煽ること(閉ざされた意志)によって増幅されたアブセンシング(不在化)のサイクルから、謙虚に傾聴すること(開かれた思考)、ソーシャル・フィールドを感知すること(開かれたハート)、行動への信頼を活性化すること(開かれた意志)といった内面的な状態を育成することによりプレゼンシングのサイクルへとシフトするのです。

自分に問うべき2つの質問:

個人として、私は自分を押しとどめているものを手放す覚悟があるだろうか、つまり本質的でないあらゆるものを?―そして現れようとしているものを迎え入れ、未知の領域に踏み出す覚悟があるだろうか?

また、集団として私たちは、単に現状を最適化するという古いイノベーションの方法を手放してもいいと思っているだろうか―私たちを開き、繋がりの構造をよりラディカルに再想像し再形成するために?こう問いかけながら私は、誰もが自分たちの組織、都市、村、生態系において再現できる形態、市民や組織がセクターを越えて関与できる新たな形態について想像しています。

ちの経済、民主主義、教育・メディアシステムを再生・進化させる、この深い学びのインフラは、どのようなものになるのでしょうか。

私は過去25年間、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアクション・リサーチャーとして、企業、政府、NGO、国際機関などを対象とした実践的な実験を行うことで、これらの疑問について探求してきました。この間、私はプレゼンシング・インスティチュートの同僚たちと共に、変化を引き起こすことについて幾つか学びました。

この仕事に没頭してきた人たちのほとんどは、以下のことに同意するでしょう。それは、どのようなシステムにおいても変革を望むのであれば、その取り組みのキーパーソンたちがお互いに助け合い、助けを得ることができるような支援構造が必要だということです。深い変化には、それを支える変革の学びのインフラが必要となるのです。

私たちはまた、深いイノベーションや変化が起こるための空間を確保したいのであれば、「実践の場」を提供する必要があることも学びました。実践の場とは、人々がやってみることによって未来を探る、安全な環境のことです。その実践の場には「ソーシャル・プレゼンシング・シアター」のようなソーシャル・アートに基づいた方法論が重要な要素であることがわかりました。

2020年全般において、そして特に来週の選挙を控え、私たちは地球にとって重要な10年を迎えようとしています。私たちの努力の成否は、今世紀の残りの期間、そしてその先に渡って人々と地球の運命を決定することになります。挑戦を受けて立つか現状を受け入れるかの選択は、私たちにかかっています。

これからの変革には、私たちの文明、つまり私たちがどのように共に生き、共に働くかを再想像し、再形成することが求められます。それ以上でも以下でもありません。

私たちは、あらゆる都市、村、組織、コミュニティーにおいて、今日必要とされている規模の変革リテラシーを構築する必要があります。

図5は、主要な制度や社会のサブシステムを再想像し再形成する上で重要となる、3タイプのインフラ・イノベーションの概要を示しています。これらは、上述したトランプ主義の根本にある状態についても提示しています。

- システム全体の学び、及び全人的学びを基にした教育機関を再想像する

- ガバナンスをより分散的、対話的、直接的なものにする構造を作り、民主主義を推進する。

- エゴ・システムからエコ・システムへ意識をシフトさせることで、経済を変革する(つまり少数者への奉仕から、全ての人、あらゆる生き物の幸福のための奉仕へ)

Figure 5: Innovations In Infrastructure

どのような変革にも旅が必要です-外的な旅と内的な旅の両方が必要で、どちらにも適切なサポート体制がなくてはなりません。プレゼンシング・インスティチュートとマサチューセッツ工科大学(MIT)の同僚たちと共に、私はこのような学習インフラをさまざまな方法でプロトタイプ化してきました。例えば、MITx u.labでは社会的イノベーションのためのプラットフォームとグローバルなエコシステムを構築し、これまでに計18万人がそこに参加しました。コロナの状況を受けて2020年3月に即興的に創った学びのインフラGAIA journeyでは、4ヶ月間のプログラムの間に13,000人の参加者を得ました。SDG Leadership Labsでは、持続可能な開発目標の達成に向けて、国連の国別チームが組織の垣根を越えて主要なステークホルダーと協働できるよう支援しています。

私たちは「デジタル・プラットフォーム」と「意識を基盤とする社会リーダーシップ・テクノロジー」を融合させると、変革的イノベーションや学びの環境を大規模に構築することができると知りました。しかし、そこには非常に意図的なホールディング・スペース(保持空間)、とてもよく開発された手法やツール、そしてエコシステム・レベルの采配が必要です。

しかし、これまでに20万人のチェンジメーカーたちが参加したといっても、私たちの取り組みは、今日私たちが直面している課題の大きさに比べれば微々たるものです。ここでの問いは、こうした学習環境をどのようにしてスケールアップすることができるだろうか?というものです。

まず考えられるのは既存の学習機関である、学校や大学です。納税者として、また社会として、私たちは教育機関に資金を提供しています。教育機関が、人々が学び、振り返る場として機能し、社会がそれ自体を振り返れるようにしたいと望んでいるからです。問題は、現在の教育システムが古い学びのパラダイムに囚われていることです。

私たちの現在の学習機関の「盲点」は、変革のためのリテラシーです。それは大学も学校も同じです。しかし、企業に話を聞くと、変革のためのリテラシーは、多くの組織が自社の人材育成において苦労している、不足しているスキルであることがわかります。つまり、そこに社会的な課題があります。組織からの需要があるにもかかわらず、供給側、つまり教育機関は空回りしています。

だからこそ、プレゼンシング・インスティチュートでは「変革のための学校」と呼ばれる取り組みを開始しています。学校、大学、企業、公共機関、NGO、コミュニティーなどで簡単に再現できるよう、変革のためのリテラシーを大規模に育むモジュール、メソッド、ツールを作成していきます。

変革のための学校は、市民と文明の再生の旅をサポートするためのインフラとして機能します。このようにして、未来の大学のために新たな形式の可能性を持つプロトタイプを、小規模なレベルで創っていきます。

Figure 6: Three Core Capacities For Transformation Literacy (by Kelvy Bird)

上記の精神で、これまで議論した3つの能力についてより古典的な用語を用いて説明し、本稿を締めようと思います。ここまで、聴く(データに話をさせる)こと、社会的な場(ソーシャル・フィールド)を感知すること、そして行動への信頼(アクション・コンフィデンス)を活性化すること、の3つについて書いてきました。より伝統的な言葉を使えば、これらの能力や美徳は、それぞれ真実、美しさ、善良さ、あるいは科学、感性学、倫理学と表現できます。

私がこのコラムで探求しようとしてきた疑問は、トランプやトランプ主義を生んだ、より深層にある条件の変容のためには何が必要なのか、ということです。そして、その問いに対する答えは、ただ単に科学、感性学、倫理学といった従来的なアプローチを取り戻せばよいというものではありません。いや、私は、もっと根源的な何かを伝えたいのです。

それはすなわち、

根源的なレベルで今の状況に対処するには、現在の文明形態の根底にある科学、感性学、倫理学の概念そのものを前進させ、新たな大学の中心に統合する必要があるということです。

科学を前進させるということは、伝統的な科学から、一人称、二人称、三人称のデータ(伝統的データ)と観察(温かいデータ)を統合した、意識に基づくシステム変革の科学 へと移行することを意味します。ポスト真実主義の状態に効果的に対応するためには、深い傾聴や複数の感覚・知覚を使った思考のためのメソッドやツールに、誰もがアクセスできるような新しい学習インフラが必要です。

感性学(aesthetics)を前進させるということは、あらゆる感覚を使って知覚することを意味するギリシャ語の語源に立ち返り、この理解を実際に応用して日常生活の中で社会的共鳴(ソーシャル・レゾナンス)を感じることを意味します。ポスト民主主義の状況に効果的に対応するためには、分散した社会の場(ソーシャル・フィールド)のあらゆる感覚を活性化することで、システム全体としてのレベルで共に感じとることができるような新しい市民インフラを構築することが必要です。

そして、倫理の概念を前進させるということは、砕け散った倫理的枠組みを超えて、人々が自らの創造性や自己の深い源泉を内省することができるような質の高い環境をつくり出すことを意味しています。私の経験では、内面を開発するための質の高い環境を提供すると、人々は自分の中に広がるものに驚かされます。倫理的行動の源は、すでに私たち一人ひとりの中に存在しています。ポストヒューマニティーの状態に効果的に対応するためには、システム全体のスケールで、人間の意図と経済活動をあらためて関連づける新しい経済ガバナンスシステムを構築する必要があります。

私にとって21世紀の大学のエッセンスとなるのは、社会と自身を変容させることで研究と教育を統合することです。

そのために、私たちは科学・感性学・倫理学の概念を上述したように進化させ、前進させる必要があります。

感性と倫理の側面なしには、新たな大学は変革に向かわず、知識と行動の間のギャップが埋まらないまま同じことの単なる繰り返しになってしまうでしょう。

Figure 7: School for Transformation

要は、変革リテラシーの中核となる重要な能力へのアクセスを民主化する、新しい市民インフラ、新しい学習インフラが必要だということです。今こそ大胆な取組みを開始する時なのです。

来週のアメリカの選挙は、チリでの新憲法のための大規模な投票、ボリビアでの民主的な選挙、ポーランドでの女性の立ち上がりなど、世界各地で見られるさまざまな緑の芽を含む、グローバルな市民的な覚醒の中で実施されます。私たち全員が立ち上がるべき時が来たのです。10年がかりでの変革のためになすべき仕事は、今本番が始まったのです。

もしあなたがこれらのイニシアチブに惹かれるものを感じたら、以下のリンクをチェックして、11月5日のGAIAジャーニーの出発に参加することを検討してみてください。

u.school: ビジュアル表現 — アニメーション

変容のためのu.school: 初期の内容

意識ベースのアクションリサーチ(Awareness-Based Action Research

U理論

自分達の盲点に向き合う(Turning Toward Our Blind Spot: Shadow As Source For Transformation

Presencing Institute

本稿の草稿にコメントを寄せてくださったアントワネット・クラツキー、ベッキー・ビュエル、マリアン・グッドマン、カトリン・カウファー、そして図1、2、6のビジュアルを作成してくださったケルビー・バードに深く感謝します。

☆訳者より、訳文の校正にご協力頂いたAkin Tanakaさんに心から感謝申し上げます。