炎を守れ:危機が生じているところでは、その危機から救い出そうとする力も高まる

Masumi Uchimura
30 min readApr 20, 2023

(Otto Scharmer氏2023年4月18日のブログ翻訳)

オリジナル記事はこちら

画像 by Jayce Pei Yu Lee

先日、ラテンアメリカから帰国しました。数週間前に出発した時とは、どこか違っている自分を感じています。何が変わったのでしょうか?

今回の滞在中、私はUNDP(国連開発計画)の招きでコロンビアに行き、また、我々の「u-school for Transformation」というイニシアティブにおいて、ラテンアメリカ初のエコシステムズ・リーダーシップ・プログラム(ELP)をスタートさせるために、ウルグアイにも行きました。ラテンアメリカ地域におけるELPの立ち上げを通して、私たちの多くが、共に何かを可能にする深い空間が、新たに開かれるのを感じました。ELPは、再生・癒し・システム変革のために、頭・ハート・手に宿る人間の知性全てを目覚めさせることをめざしたプログラムで、セクターや国を越えた3年間の集合的な旅として企画されています。

この旅で私は、まるで「未来を見ている」ような瞬間を、いやむしろ、未来の一部、私たちを、現在地球が直面しているさまざまな危機から抜け出させ、私たちを前進させてくれるかもしれない道の一部を見ているような瞬間を、いくつか経験しました。私の考えでは、我々が直面しているシステム・リーダーシップの第一の課題は、次のようなものです。世界で生じている生態系・社会・文化領域における分断を前にして、「知ること」と「行動すること」の間のギャップにどう対処するか、つまり現代の生態系領域、社会領域、精神領域の間に横たわる溝にどう橋をかけるか、です。ほとんどの人が、現行のシステムは破綻しており、変革が必要であると分かっています。しかしその認識は、集団としての私たちの行動の転換には、まだ繋がっていません。その代わりに、私たちは否定論や破滅論によって形作られた反応を目にしていますが、そのどちらもが、私たちを同じ態度へと、つまり「麻痺」へといざなうのです。

ここで、コロンビアとウルグアイで聞いた、我々がこれから進む道に希望を与えてくれるような、5つの心動かされる小さなストーリーを紹介したいと思います。これらのストーリーが示しているのは、G20諸国におけるシステム変革への大きな支持が、それぞれの集団に主体性をもたらし得るのだ、ということです(G20諸国の国民の4人に3人が、気候変動や不平等により良く対処するため、経済・社会システムを変革することに賛同しています)。このブログの最後の部分では、最近の人工知能(AI)の進歩と加速するシステム障害が、いかに「地球の癒しと文明の再生をめざす、より急進的な道」を我々に要求しているかについても、いくつか考察を述べます。どうぞご一読ください!

5つの物語

(1) コロンビア:深い傾聴によって、会話を議論(ディスカッション)から対話(ダイアローグ)に変える

コロンビアのボゴタ。我々は、ワユー族の居住地であるラ・グアヒラ地方に向かう途中です。UNDP(国連開発計画)が、ワユー族、コロンビア政府代表、民間企業といったステークホルダーたちと話をするために、私をここに招いてくれました。誰もが恩恵を受けられるような道を共に作っていくにはどうしたらいいか、というのがテーマです。

ラ・グアヒラ行きの飛行機に乗る準備をしながら、私はコーヒーを手にして、招待してくれたメンバーに、この先2~3日の詳細なスケジュールを尋ねました。メインイベントは、翌朝から60人(ステークホルダー・グループ全員、初顔合わせ)で行われる「U-lab」と題された1.5日間のワークショップだそうです。「U-lab? 誰がファシリテートするんですか? 」と尋ねると、しばしの沈黙の後、「あなたですよ!」という返答が。

「私が? 」 私はコーヒーを落としそうになりました。直接的、構造的、文化的な暴力を伴う、500年に及ぶ植民地化の後、採掘による産業的搾取が行われ、土地が劣化し、毒物に汚染され、大規模に破壊され、干ばつに悩まされる有り様(工業用の水の使用による)となっている地域です。そうしたあらゆるトラウマが生じた後に、よりによって、この人たちの現実について何も知らないドイツ系アメリカ人がやって来て、彼らの未来についてのワークショップのファシリテーションをする? えっ?

しばらく抵抗しましたが、私は、へき地に住むワユー族も含め、皆がすでにワークショップに向けて出発した後だということに気づきました。要するに、中止するには遅すぎたのです。手放して、ゆだねなければ…。

私がファシリテーターとなり、ワークショップが始まりました。それぞれのグループの、大きく異なる世界観・ストーリー・文脈が明らかになり、参加者の間で困難かつチャレンジングな会話が交わされた後、当初の主張や立ち位置から、互いの違いを理解し、その違いに取り組み、互いの意図を尊重するといった、より流動的なプロセスへと移行していきました。また、各ステークホルダー・グループの内部からも、異なった意見、ニュアンスの違う意見が出てきました。

ワユー族の居住地へようこそ
ダイアローグ・サークル
「私の腕はあなたの腕。あなたのハートは私のハート…」
ボゴタ、会談の前に外務省の前で

2日目の朝にワークショップが終了した後、その中から小人数の代表団が首都ボゴタに向かい、外務省主催で、省庁横断的な形で高官レベルの役人たちと会談しました。その会談の中で、ワユー族の女性リーダーの一人が、コロンビア政府の高官に対して、非常に直接的に、力強く、それでいて対話的なあり方で挑みました。それは素晴らしい投げかけとなり、その結果、その政府高官は、翌週中にワユー族の居住地で彼女と直接会うことを約束したのです。

会談後、彼女は私に、対話(ダイアローグ)・ワークショップという事前のプロセスがなければ、このような形の投げかけを成功させることはできなかった、と語ってくれました。このワークショップは、彼女がすでに持っていた能力を強化しただけなのですが、その能力は、呼び覚まされ、支えられ、磨かれる必要があったのです。ボゴタでの高官レベルの会談が終わった帰り際、私は議長にこう尋ねました。「この成果について、どう思われますか? 」すると彼は言いました。「とても興味深く、本当に目を見開かされました。私はこれまでに、こうしたクロス・セクター(分野横断的な)会議を何度も見てきました。しかし、人生で一度も、このような会議に参加したことはありません」。そして、こう締めくくりました。「あなたが60人の参加者と過ごされた2日間がどのようなものだったのか、私には想像することしかできませんが、きっと非常にパワフルな体験だったに違いありませんね」。

つまり、私が感じた、考え方や取り組み方における変化を、他の人たちも明らかに感じていたのです。何がその変化を促したのでしょうか? このケースでは、おそらくいくつかの重要な要素が組み合わさっていたと思います。

場所の力:メインイベントを首都ではなく、ワユー族の居住地で実施した。

意図の力:3つのグループ(そしてそれぞれのグループの各個人)が、この集いに持ち込んだ深い意図を明確にすることから始めた。

個人的な語り(ストーリーテリング)の力:参加者(私自身を含む)それぞれが、自分の人生の旅の重要なターニングポイントについて、深いストーリーを語った。

深い傾聴(ディープリスニング):会話を議論(ディスカッション)から対話(ダイアローグ)に移行させる入り口として、生成的な聞き方を意識した。

システムマッピングの実践:体験ベースの「システムマッピング」という手法を使い、それぞれが自分の視点を語り、それが皆に聴かれ、システムを共に見ることを促した。

静寂:深い共鳴と内なる叡智が現れるよう、静寂の時間を持った。

生成的な対話:長老たちが開催した、夕方のキャンプファイヤーを囲んだ会話は、会話の場をより深いレベルへと転換させた。

(2) ラテンアメリカのエコシステム・リーダーたち: 社会フィールドを転換させる入り口としての、「共に見ること」

ホテル ニルヴァーナ/コロニア、ウルグアイ。私は180人のエコシステム・リーダーたちと輪になって座っています。ラテンアメリカの17カ国から集まったこの素晴らしい変革者(チェンジメーカー)たちは、あらゆる社会セクターを代表しています。草の根活動家、ビジネス・イノベーター、地方政府の代表から、アマゾンのさまざまな場所に住むスピリチュアルな長老や先住民の指導者たちまで、さまざまな人がいます。暴力的で危機的な状況にある、コロンビア太平洋地域のユースリーダーたちが、影響力のある企業のCEOや、財団代表の隣に座っています。私は、今ここに、未来の存在を感じています。この3年間の旅に参加しようと応募してきた500人から、財団、ソーシャルベンチャー、環境再生型ビジネスなど20の共催団体の協力を得て、180人が選ばれました。このプログラムは、伝統的なトレーニングではなく、あらゆる背景を持つチェンジメーカーたちが一堂に会し、何が起きているのかを深く理解し、学びを共有し、互いに支え合いながら深い再生とシステム変革を起こすことを目的としています。

ラテンアメリカ中から集ったチェンジメーカー・エコシステムリーダーたち

私にとって特に興味深かったのは、参加者の間の地域的な広がりです。ブラジルからの参加者は、初めて「真にラテンアメリカ的なもの」を感じたとコメントしています。アルゼンチンの政府系チェンジメーカー、ミルナは次のように言います。

「最も印象的だったのは、私たちが自分たちをラテンアメリカとして見ることができるようになったということです。ラテンアメリカとしての大きな可能性を感じ始めると同時に、私たちの姉妹の痛みにも共鳴し始めました。私は、大陸としての自分たちを癒し始める、可能性の場を感じました。私たちは、自分たちの回復力、そして私たちの間に生まれつつある未来とつながることができるのです。

私が際立っていると感じたのは、このプログラムは頭の中に入れて持ち歩くものではなく、プロセス全体が、体に取り込まれるようにできているということです。今もそれを感じています。課題は、ハートを開いて対等な立場で互いを見つめ、そこからつながっていくことです。そのつながりがあってこそ、意志のレベルでオープンにつながることが可能となり、これまでとは違う何かを、共に行うことができるのです。」

プエルトリコ人の立場から、ダヤニが次のように付け加えました。

「特定の行動をとる前に、ラテンアメリカを再定義する必要があると感じました。ラテンアメリカの特徴とは何でしょうか? プエルトリコ人の私が、その空間の一部として歓迎され、認められたことは、とても感動的であり、自分を再確認できました。

ワークショップの後すぐに、私たちの多くは、自分たちのプロジェクトの中で、そして家族の中で、深い傾聴スキルを使い始めました。このワークショップは、個人的な場にも、政治的な場にも、文化的な場にも、あらゆる場に適用できるものです。」

システム自身に見せ、感じとらせ、自分を変えさせる

3日半のプロセスの中で一つの転機となったのが、私たちが 「co-sensing(コ・センシング)」と呼んでいる、集団で共に見る実践です。この時は、4Dマッピングと呼ばれる手法を用いました。このマッピング手法は、ソーシャル・プレゼンシング・シアターというソーシャルアート(アラワナ・ハヤシと、プレゼンシング・インスティテュートの彼女の同僚たちによって創られました)を利用しており、システムがシステム自身を見て、感じて、その余韻を感じながら、自身を変革する方向に向かっていく、というものです。

私たちがマッピングした事例は、コロンビアの太平洋岸から参加していた5人の若いリーダーたちによって提示されました。その事例は、その地域の貧しい田舎の有色人種の女性の状況に焦点を当てたもので、彼女たちは、私たちの今日の世界に存在する、直接的、構造的、文化的暴力のほとんどから被害を受けていました。彼女たちのレンズを通して見る現実は、悲痛なものでした。ほとんど言葉を使うことなく(4Dマッピングの手法は、社会科学分野におけるステークホルダーマッピングと、意識をベースにした身体知を統合したものです) 、私たちは皆、複数のレンズを通してシステムを体験しましたが、特に、疎外されている人々のレンズを通して、そのシステムを体験したのです。マッピングが終わるまでに、涙を浮かべなかった人は少なかったと思います。もちろん私の目も潤みました。暴力にさらされた女性たちの体験にも、加害者、武装勢力、ギャングを含むコミュニティ全体の状況にも、誰もが深く心を動かされました。彼らもまた、コミュニティの一員です。彼らもまた被害者なのです。若者たちが若者たちを殺している状況。祖先役の人が、孤立している武装集団役の人に寄り添い、心を通わせた場面も、感動的な瞬間でした。

私や他の参加者の心を揺さぶったのは、このような被害のほとんどが、より大きなシステムの一部であることを理解することによって、見えてきた景色でした。「私たちは、自分たちにこんな仕打ちをしている!」これは、「彼らのせいでこんな目に遭っている!」という、他者のせいにする態度の真反対です。こうした認識は、より高い、より全体的なシステム意識から、つまり集合的にハートを開くことからやってきます。

4Dマッピング:システム自身に見せ、感じとらせ、自分を変えさせる

4Dマッピングの体験は、グループ全体のより深い場所を開いてくれました。その後、先住民の長老たちがヒーリングの儀式と実践を執り行ってくれ、全員が心を開き癒していくプロセスを深めました。このイベント以来、コロンビアのリーダーたちは、非暴力的な男性性に関したプロトタイプの実践を始め、そのプロセスは、地域全体の参加者によってサポートされています。「癒し」の語源は、まさに「全体を(再び)作る」、つまり再び繋がり、再統合する、ということなのです。

Abuela Amalia, Abuela Alejandrina, Coral Herenciaによって執り行われたヒーリングの儀式

翌日、コロンビアからの他の参加者が「わざわざウルグアイにまでやってこなければ、自分の国で実際に何が起きているかを知れなかったなんて、信じられない 」と言いました。

多くの人が、地域コラボレーションの可能性を感じたとコメントしています。メキシコの社会的な金融機関に勤めるアナ・パウラは、次のように言います。

「印象的だったのは、地域コラボレーションの可能性を感じたことです。 私たちは、自分たちが思っているよりもずっと似ていて、その可能性を伸ばしていくために、それぞれの思惑を脇に置いて会話することができるのです。」

この素晴らしい集いと集合的な旅を実現させた人たちから、私たちは何を学ぶことができるでしょうか?

ラウラ・パストリーニは、ラテンアメリカでu-schoolとプレゼンシング・インスティテュ-トの活動をリードしています。彼女は次のように言います。

「ELPで起こったことは、参加者一人一人が自分自身の変革に対してオープンになり、社会変革のための条件を共創できるように、私たちが受け皿となり、その変革の土壌を耕すことができたということです。私たちは、自分自身を変革しない限り、何も変革できないのです。」

場をホールドした、もう一人のチームメンバーであるヴィヴィアナ・ガルダメスはこう付け加えます。

「このプログラムで最もパワフルなことは、物事を根源から体験する可能性だと思います。あらゆる実践、あらゆる取り組みが、認知的なものだけに留まりません。感情が動き、共鳴し、超越し、そして共創へと繋がるのです。」

(3) 「ウルグアイが姿を現す」: 主体性を活性化する入り口としてのダイアローグと、システムマッピング

ウルグアイのモンテビデオ。首都に到着した翌朝、私たちは「ウルグアイが姿を現す」という1日限りのイベントを行いました。このイベントは、12団体の共催で、参加者には上院議員、国会未来委員会の長、国連機関の長、企業のCEO、NGOや財団のリーダー、草の根活動に携わるチェンジメーカー、公共部門のリーダー、教育者などが含まれていました。誰もが同じ理由でやって来ました。二極化と分裂が進む世界において、国やコミュニティの将来について、共通の懸念を持っていたのです。

この日のセッションが始まったとき、私は330人のリーダー、チェンジメーカー、そして一般市民たちの顔をのぞき込みました。私は、彼らの懸念を感じました。しかし同時に、一人ひとりがこの部屋に、そしてこの瞬間にもたらしている、驚くべき意識の在りようとオープンさも感じ取ることができました。その瞬間、私は、他の地域で最近同じようなグループと共有した経験を思い出し、全身でこう思ったのです。そうだ、これが私たち人間なんだ。危機が迫っている場があれば、私たちはそこに集い、そうすることで危機から救い出そうとする力が活性化し、高まり始めるのだ…。

そのつもりはなかったのですが、私は自分自身を形成した経験のいくつかを共有し始めました。私はドイツ北部の環境再生型の農場で育ち、1970年代から80年代初頭にかけて、環境問題や社会問題に対して高校生の頃から積極的に取り組んできました。そして、初めて大学(ベルリン自由大学)に入学したとき、言論や会話の質にとても失望しました。しかし、その大きな失望感の中で、私は、科学の異なった捉え方を体現している一人の客員教授と出会いました。科学としての平和研究の創始者であり、構造的暴力論の著者として知られるヨハン・ガルトゥングです。彼の科学へのアプローチは、不変性を探し出し、それを壊すこと(集団的な行動を支配する「法則」を変革すること)を目的としていました。私が求めていたのは、まさにそれでした。

大学という伝統的な組織の中で、一人だけ違うことをやっている人に出会ったこと、それが私の人生の軌道を変えるには十分だったのです。彼のアプローチは、世界中のなにものも消すことのできない炎を私の中に生じさせました。それくらいシンプルなことだったのです。その瞬間を思い出した時、私は思い当たりました。モンテビデオの330人の市民たちにそれを共有しながら、私は心を動かされていました。そこには、次のようなとても明確なメッセージがあったからです。「私たち一人ひとりが大きな責任を負っている。私たち一人ひとりが、誰かのためのその一人になれる。そうすることで、この地球上において、人間のより深い主体性を活性化させることができる。それが、火を灯す方法だ」

モンテビデオ:「ウルグアイが姿を現す2023」

その日の詳細をすべて覚えているわけではありません。しかし、より深いレベル、つまり炎のレベルで他者とつながったことは覚えています。ダイアログ・ウォークやその他の方法で、自分のストーリーをシェアし、他者のストーリーに耳を傾けることで、グループの中に何かが起こります。すでにそこにある(しかしまどろんでいる)何かが活性化されるのです。「ウルグアイが姿を現す」の最初の数時間で起こったことは、まさにそれでした。

昼食後、私たちは、ウルグアイのエコシステムが直面している現在の課題を探り、ウルグアイのリーダーたちは、共通の将来像を描こうと努力しました。私たちは「3Dマッピング」と呼ばれるシステムマッピングツールを使って、それを行いました。マッピングのサブグループは、教育、再生可能型食品、持続可能なビジネス、コミュニティ開発、ガバナンスなど、それぞれ異なるシステムに焦点を当てました。各テーブルには、システムの進化を促進するための重要問題に関わる、多様なチェンジメーカーたちが招集されました。

システムマッピングの体験のシェア

会議は、深い可能性の手応えとともに終わりました。参加者は新たなつながりを築き、集合的な主体性を活性化させました。1日という短い会議で実現したこのような変化は、今日の世界の状況についての、意義深い徴候データであると私は考えています。

多くの場所で人々が目覚め、あるいは目覚めつつあります。ほとんどの人が、私たちは人類としての集合的な旅路において、存在を賭けた岐路に立っていると感じています。今こそ、ここから先の方針を定めるために、共に理解する必要があるのです。何日も何週間もかかるようなプロセスを必要とするわけではありません。人々はすでに、何かが壊れていることも、自分たちが今そこに注意を向けるべきだということも、分かっているのです。

しかし、多くの場合欠けているのは、今までとは異なるタイプの集団行動を必要としている都市、国、地域において、この種の集いを活性化させるための最低限のインフラです。

(4) 台湾 :創発―分裂に直面したとき、どのようにリードするか

ボストンに戻ってから、私は、ラテンアメリカで経験したこの「ハートを開くこと」と「転換」が、世界の他の場所や地域でも起こり得るのだろうか、と考えました。私が経験したことは、その場所特有のものだったのでしょうか? それとも、地球のどこででも起こり得る、もっと普遍的なものだったのでしょうか?

数日後、私はこの問いについて、さらなるデータを収集する機会を得ました。台湾の数百人のチェンジメーカーたちとのバーチャルセッションで、私は自分がラテンアメリカで経験したことの一部をシェアしました。そして、それが彼らの心に響いたかどうかを尋ねました。これが、彼らのビジュアルによる返答です。この美しいビデオクリップを見て、ご自分の目で確かめてください。

生成的スクライビング by Jayce Lee

明らかに、こうした思いは世界中で通じるものなのです。東アジアやシリコンバレー、その他の地域の人たちと話すと、当然、今AIが話題になります。私がここで述べている人間の深い能力、つまり地球への意識と人間性を目覚めさせる炎は、AIやChatGPTによって喚起されている問いと関係があるのでしょうか? はい、あらゆる意味で関係するのです。

AIや、ChatGPTのような言語予測マシンは、私たちがこれまで蓄積してきた知識、つまり過去の知識を合成する(そして鏡のように映し出す)ことに長けています。では、これらの機械にできないことは何でしょうか? 根源的なディープセンシング(深く感じとること)ができないのです。感じとることはできます。しかし、既存のパターンに基づく予測を手放し、私たちの最も深い根源から現れたがっているものを、招き入れることはできないのです。それが「ディープセンシングができない」という意味です。それらの機械は、源から、つまり現れたがっている未来から、汲みとることができないのです。無から有を生み出すことができないのです。それがAIの「盲点」 です。

そしてそれこそが、これからの教育システムにおいて最も重視されるべきことです。つまり、現れたがっている未来を、共に感じとり、共に創造していくための深い能力を身につけることです。それが、U理論において我々が「プレゼンシング」と呼んでいるものであり、今この瞬間に最高の未来を感じとり、それに向かって行動する能力なのです。

(5) u-lab 2x:惑星の癒しと再生のための、グローバルなエコシステムを活性化する

昨日、「時事的な探求」と「オンライン日記」の混ぜ合わせのようなこのブログを書き終えようとしていた頃、u-lab 2xのセッションの一つが開催されました。u-lab 2xは、u-schoolのオンライン・チームアクセラレーター(訳注:チームのイニシアティブを加速させる支援を行うプラットフォーム)で、チームが、プロトタイプのアイデアから始めて、エコシステムにインパクトをもたらすようになるまでの支援を行います。今年は66カ国から234チームが参加し、22の言語で、教育、ビジネス、健康、生態系再生の各分野における変革をめざして、非常に触発されるプロトタイプ・イニシアティブに取り組んでいます。実に素敵なグループです。この素晴らしいイノベーション・エコシステム(u-schoolが無料で提供しています)のグローバルな多様性を感じとりたい方は、以下のビデオクリップをご覧ください。全てのチームが、同じ基本的手法やツールを使いながら、互いに、プロジェクトを最適に進めるための支援やコーチングを行っています。

その中で昨日のコーチングセッションは、グループ全体が3人ずつのZoomブレイクアウトチームに分かれ、参加者それぞれが自分のアイデアを述べ、他の2人からフィードバックをもらうというものでした。このときに感じたポジティブなエネルギーは、先に述べたコロンビアやウルグアイのときと非常に似ていました。昨日の場合は、セクターを超え、地域を超え、地球全体に広がる、マルチローカルな変革の取り組みでした。

画像 : u-lab 2x 静寂の場から創造する— 無から創造する (by Olaf Baldini)

今こそ、私たちが姿を現すべき時です。互いのために姿を現すのです。環境活動家であり、システム教育者でもあるジョアンナ・メイシーが言うように、「状況が暗ければ暗いほど、呼びかけは明瞭になる」のです。昨日のu-labチームのようなエコシステム・アクティベーターたちが集まれば、未来の種が地球規模で根付き始めていることを実感できます。それは、さまざまな場所で起こっていますが、それらすべては根底にある網で繋がっています。「搾取とエゴシステム意識」から「再生とエコシステム意識」への移行、という共通の願いによっても繋がっているのです。そうした未来の種について詳しく知りたい方は、ここをクリックしてビデオクリップをご覧ください。

最後に

以上が5つのストーリーです。これ以外にもたくさん、触発されるようなイニシアティブや、より良い未来のために活動する人々の例を挙げることができます。しかし重要なのは次の点です。プロジェクト、イベント、イニシアティブを通じて、私たちu-school for Transformationは、新たなパターンの現れを目にしているということです。それは、人間の意識のより深いレベルを活性化させるパターンであり、私たちの深い創造性及び自己の源から燃え上がる炎です。この炎は明るさを増し、より手に入れやすくなり、存在感を増しています。それと同時に、おそらくかつてないほど、消滅の危機にさらされているのです。

現代を特徴づける3つの分断、すなわち生態学的分断(気候、生物多様性)、社会/経済的分断(不平等、二極化)、精神的分断(絶望、鬱)が私たちに突き付けているのは、「鏡を見て、自分たちが自分たち自身にどんな仕打ちをしているのか、見てみなさい」ということです。

この深いレベルの目覚めは、すでに多くの場所で自然発生的に起こっています。しかしそれらは、きちんとした方法論でサポートされているわけではありません。それらが有機的に発現するのを後押しするようなインフラがないのです。ここで紹介した5つのストーリーの中には、そうしたサポートの方法が述べられています。共有した意識をベースに、共に行動する中で目覚めの発現を促す、最低限のインフラを提供するのです。こうしたインフラがなければ、これらのストーリーは存在し得なかったでしょう。このようなつながりや行動が、活性化されることはなかったでしょう。

ほとんどの人は、我々のシステムが深い変革プロセスを必要としていることを理解しています。しかし、組織のリーダーを含め、ほとんどの人が気づいていないのは、システムを変革の旅に導いていくには、支援構造が必要だということです。そのようなインフラは、専門的な手法やツールを持っています。それらは、一連の(意識をベースにした)社会テクノロジーであり、チーム・マルチステークホルダーグループ・市民が、より共創的で、意図的で、意識的な在り方で、聞き、会話し、協働することを可能にします。私は過去25年間、MITやPresencing Instituteの同僚たちとともに、こうした手法やツールを共に創造し、クリエイティブ・コモンズ(訳注:著作権者の許可する範囲内であれば自由にコンテンツを使用できることを証明するしくみ)を通じて、それらへのアクセスを民主化することに取り組んできました。

私たちも、皆さんも、そしてすべてのチェンジメーカーたちも、こうした手法やツールを必要としています。それが変革の1つの要素です。また、上記のストーリーや画像で紹介したような、さまざまな種類のスペースも必要です。しかし、私たちが最も必要としているのは、以下のような、異なった質の在り方と意識の向け方なのです。

・オープンマインド(開かれた思考):自分の知らないことにアクセスする能力(深い傾聴)

・オープンハート(開かれたハート):自分の弱さを見せる能力、心を動かされる能力(共に感じとること)

・オープンウィル(開かれた意志):静寂の場から行動する能力、無から創造する能力(プレゼンシング)

これらはU理論の核となる要素です。結局、そうした空間に投げ出されたときに最も重要なツールとなるのは、あなた自身の能力です。あなたと、あなたが関わる人たちの間で、あるいはその関係性の中で、あるいはその関係性を通して展開する、より大きな社会フィールドに繋がるための手段として、自己を使用する能力です。社会フィールドとは、社会システムのことで、外からだけでなく、内からも体験できるものです。端的に言うと「魂を持った社会システム」です。社会フィールドにおいて個人が体験する変化は、次のような次元においてマッピング・追跡可能です。

水平的な広がり:人間同士、存在同士の間の境界の消滅

垂直的な深化:その場に、そして最高の未来の意図に、深く繋がる

集団のハートの鼓動に同調する:「私たちが自分たち自身に行っている仕打ちを見つめる」

時間:速度を落とす、今の時代精神が私たちに望んでいることにつながる

創発:現れたがっているものに注目し、「それが望むように現実化させる」(マルティン・ブーバー)

社会変革を可能にさせる最低限のインフラ

私たちは何を学びつつあるのでしょうか? 私たちは、世界中の多くの場所に、深い変革を起こす大きな可能性があることを学んでいます。その可能性は決して希少なリソースではありません。希少なのは、その可能性を顕在化させ、最大限実現させるための支援構造なのです。ウルグアイで始まったことは、集団のハートの最初の鼓動のように私には感じられました。私たちは、集団のハートを開いていく必要があります。多くの地域で、多くの場所で、その能力を促進していく必要があります。上述した複数の集いは、このような深い成長の場を構築し、共にホールドする方法について、いくつかの経験を与えてくれました。

以上が、この数週間の私の報告です。次回のブログでは、これらの小さなストーリーを、私たちが世界で目にしている大きなシステム変革のパターンに結びつけてみたいと思います。また、過去20年間、東南アジア及びアジア太平洋地域のイニシアティブやチェンジメーカーたちと活動してきましたが、その地域での最新の経験も紹介するつもりです。彼らの内の一定数が、今週後半、このMITのキャンパスに到着する予定です。

このブログの最後を、私が身に染みて感じた事柄で締めくくりたいと思います。前述したように、ラテンアメリカの旅から帰ってきて、私は以前の自分とは変わりました。同僚たちや、旅を共にした仲間たちの目を見つめ、ハートを見つめた時、何かが深いところに触れたのです。正しい意図を持ち、適切な傾聴の実践を行い、適切なツールを用いれば、いかに簡単に新しい空間を作り出すことができるかを目の当たりにしました。これらの出会いは、私に深い希望を与えてくれました。

そして、自分自身への問いかけと共に帰還しました。「お前は自分の人生をどう使っているのか? なぜ、必要とされる場所で、こうしたスペースを用意するために、あちこちに出かけていかないのか? 」それが、私に起こっていることです。皆さんは、皆さん自身の現状に挑むような、どんな問いをお持ちでしょうか?

私たちの多くは、この、地球への新しい意識やムーブメントが目覚めようとしているあらゆる場所(そのような場所は至るところにあります)に、生成的なスペースを作る必要があることを知っています。では、どうすればいいのでしょうか?

市民やチェンジメーカー、そしてさまざまな分野のリーダーたちが、インスピレーションと主体性の炎を燃え上がらせることができるような、深い学びとリーダーシップの場を、どのように創り出すことができるのでしょうか。

その問いかけが、私を見つめています。あなたを見つめているのは、どのような問いかけですか? ここで語られたストーリーは、あなた自身の経験と、どのように共鳴したでしょうか? これから数週間、あなたはどのようなステップを踏んでいきますか? これは、私たちの時代の要請なのです。私たち一人ひとりが姿を現さなければなりません。あなたへの問いかけが、あなたを見つめるのを許して下さい。その問いが、あなたに語りかけてくるのを許して下さい。

真の変化は、そうやって起こります。個人や小さなグループによる、少しずつのステップの積み重ねです。共有した意識から共に行動すれば、アイデアや行動が融合し、現れたがっている未来と一致するようになるのです。

・・・

同僚である、素晴らしい生成的スクライビングビデオを作ってくれたJayce Leeと、草稿に有益なコメントをくれ、編集してくれたBecky Buell、Eva Pomeroy、Laura Pastorini、Maria Daniel Bras、Emma Paineに感謝します。

その他のリソースについては、こちらをご参照下さい:u-school for Transformation

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