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炎を守れ

23 min readSep 9, 2022

Otto Scharmerの2022年9月7日のブログの和訳)

崩壊の時代において、徹底して存在する輪

図1: Kelvy Bird 作

私は今、美しいスイス・アルプスの高地にあるポントレジーナから戻るため、レーティッシュ鉄道の車両の中に座っています。溶けていく氷河に囲まれながら、今週初めにこの地で開催された2つの集いについて振り返りました。1つは約250人が参加したWorld Ethic Forum (世界倫理フォーラム)、もう1つはWorld Future Council (世界未来評議会)の年次総会で、そちらには市民社会、政府、学界、企業から50人のグローバル・チェンジメーカーたちが集いました。どちらの集いも、再生的で、平和で、公正な未来への道を再想像することを意図して開催されたのです。

ここ数カ月の間に行われた、これらの会合や他の同様の会合を振り返ると、3つのテーマに気づかされます。これら3つのテーマは、今週末に発表される予定の、国連の『人間開発報告書2021–2022』や、ローマクラブが『成長の限界』という画期的な報告書を出して50年後の今、新たに発表しようとしている研究報告書の中でも取り上げられています。この新たな報告書のタイトルは『Earth for All: A Survival Guide for Humanity (地球は全てのもののために:人類のサバイバルガイド)』(今月末出版予定)です。この研究は、ローマクラブが招集した先駆的な経済思想家、科学者、活動家からなる「変革の経済委員会」による共同作業の賜物です。

文明の崩壊?

第1のテーマは、私たちが加速度的に破壊と崩壊が進む時代に生きているということです。その兆候は生態系の劣化に現れており、洪水や干ばつは頻繁に「過去1,000年で最悪」と形容されます。気候の不安定化、水位の低下、表土の流出、生物多様性の憂慮すべき喪失などが生じています。社会システムの崩壊の兆候は、二極化、不平等、人種差別、暴力、戦争などのレベルの増大や、気候に関連した大規模な移住の始まりに現れています。

第2のテーマは、これら全てを受け入れたときに生じる「沈んでいく」感覚です。これは次のようなものです――「私に、私たちにできることは何もないようだ。もう手遅れかもしれない」。つまり、集団的絶望感が広がり、それが人々の見解となっているのです。特に、私たちの社会としての失敗を、重荷として未来へ背負っていく若者たちはそう感じています。

第3のテーマは、パラドックスに関することです。私たちは、文明の崩壊を防ぐために必要なことをほとんど全て知っている、つまり事態を好転させるために必要な知識、技術、財政手段のほとんどを持っているのに、それを実行に移そうとしない、というパラドックスです。要するに第3のテーマは、過去50年以上にわたって私たちの集団的行動様式の中にはびこってきた「知ること」と「行動に移すこと」の間の大きなギャップに関連します。

『Earth for All』の調査結果に加え、この「知ること」と「行動に移すこと」の間のギャップをどうすれば埋められるかについて詳しく説明する前に、これら3つのテーマが持つ深い意味を考えてみましょう。

それら3つは、私たちに何を告げているのでしょうか? それらが示しているのは、1つの文明が終わりを迎えて滅び、新たな文明が誕生しようとしているそのちょうど過渡期に、私たちが生きているということです。そして私たちは、地球とそこに住むすべての種の守護者として「未来の最高の可能性」の炎を守るよう求められているのです。

文明の興亡を研究したイギリスの歴史家アーノルド・トインビーは「指導者と彼らの構築した制度がその時代の主要な課題に対して創造的に対応できなくなったとき、その文明は崩壊する」ということを発見しました。ここで言う文明の崩壊(そしておそらくは再生)プロセスには、3つの主要な特徴があります。

1. 厳しい現実:社会と生態系の劣化・分裂・機能停止・破綻などが加速す る兆候を、私たちははっきり目にしています。

2. 集団的対話の場:「起こっていることについて共に会話する力」を失うことにより、現状を理解する力と、現状に対応する力の両方が損なわれている状態を、私たちは目にしています。この問題は、政治におけるダークマネーの有害な影響や、偽情報・二極化・ネガティブな感情などを増幅させるソーシャルメディアベースのハイテク企業ビジネスモデルによって深刻化しています。

3. 人間の精神:メンタルヘルスに関する問題が大量に発生しています。2022年の『人間開発報告書』によると、地球上の8人に1人がメンタルヘルスの問題を抱えているとのことです。私たちの集団的な無力感が、今この瞬間に対して創造的に対応するのを妨げているのです。

私たちは沈みつつあるのか?それとも上昇していくのか?

複雑な問題に対処することについて、昔からよく言われる次のようなジョークがあります――「混乱していないとすると、あなたは疎いのだ」。現在の状況に照らし合わせると、次のように言うべきかもしれません――「落ち込んでいないとすると、あなたはおそらく疎いのだ」。ここで私が提供したいのは、現在非常に重くのしかかっている集団的絶望状態に対する、異なった解釈です。私はこの集団的状況を、希望の兆しと見ているのです(それが否認からの脱却を意味しているからです)。

ここで、あるデータを紹介します(これは1つの逸話でしかありませんが)。MITで、私はよくグループ・シミュレーションに参加しています。それはジョン・スターマン教授と、システムダイナミクス・グループに所属する彼の同僚たちが、さまざまなセクター及び地域のリーダーたちを集めてロールプレイング・シナリオゲームを行うというものです。参加者はそれぞれ、気候変動交渉における主要国や利害関係者を代表するチームに配属されます。各チームは、検討と議論の後、提案と決定を行い、それらがコンピューター・モデルに入力されます。すると、それらの決定が今世紀の残りの期間に各地域にどのような影響を与えるかを、コンピューターが科学的に予測します。参加者は、自分たちの決定が集合的にどのような影響を及ぼすかを容易に見ることができます。彼らの決定はほとんどの場合、最初は災害と崩壊をもたらします。そうした決定は、私たちの現在の集団的行動様式を反映しているのです。

自分たちの決定がもたらす結果の予測を見た後、チームは第2ラウンドの議論、交渉、意志決定を行います。つまり、参加者たちの意志決定は、当初は今の現実を反映したものになります。しかし集団としての意識が向上するにつれ、彼らは自分たちの決定の欠陥がもたらす影響に気づくようになります。そして徐々に、彼らの集団としての行動が変化し始めます。そうした場面で私が目にした、集団的理解・意志決定パターンの変化は、おおよそ次の4つの段階を経ます。

1. 否認:自分たちの決定が未来に与える実際の影響を無視する。(“私の問題ではない”)

2. 距離を置く:問題は認めるが、他の誰かのせいにする。(“彼らのせいだ、私のせいではない”)

3. 絶望:否認や距離を置くことでは何も解決しないとわかった後、“もう手遅れだ ” という沈んだ気持ちになる。

4. 深い感知と共創力:その瞬間にとどまり、しっかりと見つめ、そして(古いものを)手放し、新たな可能性を出現させる。シミュレーションにおいては、この段階がしばしば参加者たちを、協働と共創の根本的に新しい方法へと導く。その時彼らは、全体に対する共通意識から行動する。

ケルビー・バードによる冒頭の画像は、上記の4段階をUの変革プロセス上に描き、このパターンを視覚化したものです。そしてこの図は、私たちの「集団的絶望感」が物語の終わりではないことを示しています。むしろその絶望感は、共創的な取りくみへ向かう、集団としての旅の始まりになり得るのです。しかし、私たちの現状をこうしてより前向きに解釈することが正しいとしても、もちろん大きな疑問は残ります。絶望の状態から、深い感受と集団的創造力へ移行するには、何が必要なのでしょうか?

火星人から見た私たちの集団的盲点

もし火星からの友好的な訪問者が今日アメリカに降り立ち、私たちの集団行動様式を研究するとしたら、その火星人は何に気づき、何に驚くでしょうか?

私は、地球外から来た鋭い観察者なら誰でも、以下のパターンに気づくと思います。

・安全保障:世界最大の軍事大国であり、徹底武装し、70カ国以上にある800の海外軍事基地を運営し、その全兵力を自国の海域外に潜むとされる危険に集中させている。しかし本当の脅威や危険は、国内から発生する傾向がある(例:9.11のテロ攻撃、1月6日の国会議事堂襲撃、気候関連の安全保障リスク、武装した市民による市民への攻撃)。

・ヘルスケア:地球上で最も裕福な国でありながら、パンデミック以前から平均寿命が低下しており、ヘルスケアのいくつかの分野は最悪の状態となっている。2019年、米国小児科学会は、青少年の間で「障害や制限」を引き起こす最も一般的な問題として「精神的健康障害が身体的な問題を上回った」と指摘する報告書を発表した。脅威の主体が外的なもの(事故や薬物)から内的なもの(メンタルヘルス)に移行しているにもかかわらず、現在のシステム、すなわち医療従事者の訓練や緊急時の対応訓練は、依然として外的脅威に焦点を当てたものとなっている。

・経済のガバナンス: 現代の経済はすべて分業に依存している。それは生産性の鍵となっている。しかし、これには調整という課題が伴う。分業によってバラバラになってしまった全体を、どのようにつなぎ合わせるのか? これまで私たちは、市場という「見えざる手」と政府という「見える手」の、2つの強力な外部調整メカニズムに依存してきた。歴史上の一時期、労働組合が、少なくとも一定の利害関係者のために、こうした力を調停する役割を果たした。しかし、観察眼を持つ火星人の研究者ならおそらく気付くだろうが、これらの伝統的メカニズムだけでは、今日の課題に対処するのに十分ではない。

私たちの調整メカニズムは進化する必要があります。外部メカニズムだけに頼るのではなく、集団的インパクトを内在化し、全体に対する共通意識から調整し行動する必要があります。私はこれを共通意識に基づいた集団行動(Collective Action from Shared Awareness、略してCASA)と呼んでいます。「知ること」と「行動に移すこと」の間のギャップを埋め、変革の能力を構築する第一歩として、今年初め、ストックホルムで「持続可能な開発目標(SDGs)」を補完する「内的成長目標(IDGs)」が発表されました。

火星人の研究者は、市民の幸福を支えるはずの様々な制度の「形態」と「機能」の間に、驚くべきミスマッチがあることをノートに書き留めているかもしれません。このミスマッチは、私たちの時代の発達における重大な課題です。あらゆるシステムにおいて「形態」と「機能」の間のギャップ、つまり私たちが「知ること」と「行動に移すこと」の間のギャップと呼んでいるものを埋める必要があります。私たちが学んだのは、このギャップを埋めるには「地球と、そして互いと調和して生きたい、という人間の深い願い及び能力」に再びつながり、その願いと能力を、私たちの制度、社会、土地との関係性の変革に用いる必要があるということです。そしてそれは、私たちが内面性を深めること、つまり、外面性(私たちの盲点)を内面化することで、現代の課題によりよく対応できるようになった場合にのみ、起こり得ます。

炎を守れ

さて、大きな問いに戻りましょう。私たちは沈みつつあるのでしょうか、それとも上昇していくのでしょうか? 私の考えでは、その答えは、変革のための新たなタイプの社会的学習インフラ、つまり「個人と集団に変革を起こす人間の能力」とつながり、それを活性化するインフラを作ろうとするかどうか、そしてそれに成功するかどうか、にかかっています。

World Ethic Forum (世界倫理フォーラム)の最初の2日間は、「火の番人」と呼ばれる50 人ほどの小さな輪で始まりました。話す順番が回ってくると、私は学生時代の感動したエピソードを紹介しました。1986年に、ヨーゼフ・ボイスがヴィルヘルム・レームブリュック賞(彫刻作品に与えられる賞)を受賞する場にいて、彼のスピーチを聞いたのです。それはボイスが亡くなる直前の、おそらく公の場で行った最後のスピーチでした。ボイスは、レームブリュックが与えてくれた「インスピレーションの炎」について語りました。その炎が、ボイスの芸術作品全体に影響したのです。そして彼は “炎を守れ! ”という言葉でスピーチを締めくくりました。Schütze die Flamme! この言葉が深く心に響きました。

その瞬間、「人間の精神の本質」を表す小さな炎がまるで、それを受けとり、守り、そして次の世代に受け渡す私たちのような人間に、完全に依存しているかのように感じたのです。ボイスが「炎を守れ! 」という言葉でスピーチを終えたとき、私もその炎を受けとったような気がしました。きっと彼も、何年も前にそんな感覚を持ったのでしょう。炎を守るというのは、松明を掲げたり、振り回したりするのとはまったく違います。内なる目で見ると、それはロウソクのようでした。片方の手でロウソクを持ち、もう片方の手で炎を守るのです―自分のハートのすぐそばに持つことで。

それが今、必要なことなのかもしれません。私たちの惑星の緊急事態はすでに非常に危ういため、私たち一人ひとりがハートのそばに炎を持ち、守る必要があるのです。

3つの変革

MITの同僚であるピーター・センゲは「最もシステム的なものは、最も個人的なものであり、人間同士の関係性に表れる」という言葉を好んで使います。この言葉には「社会彫刻」という言葉を生み出したヨーゼフ・ボイスも深く共鳴することでしょう。ボイスは「社会彫刻」という言葉に “我々人間が生じさせる関係性の全て” という意味を込めました。このような精神を持って、今度は対極にあるマクロ・システムという角度から見てみましょう。現在の数多くの危機に適切に対処するためには、少なくとも3つのマクロレベルの変革が必要であると、私は考えています。以下のような変革が必要なのです。

・私たちの経済をエゴからエコへ

・私たちのガバナンスをトップダウンから分散・対話型へ

・私たちの教育システムを、成果やテスト主導から、より良い未来を生み 出すものへ

  1. 経済をエゴからエコに転換する

この経済変革に向けた道筋は、今月末にニューヨークの国連で発表される「ローマクラブ」の新しい研究報告の中で提示される予定です。この研究報告は、以下の5つの主要な転換に焦点を当てています。

貧困をなくす:極度の貧困は過去50年間で劇的に減少した。それでもなお、世界のほぼ半数が1日4USドル以下で生活する貧困状態にある。以下はその対応策。

・新たな「特別引出権」を創設し、年間1兆USドル以上を貧困国に割り当 て、再生可能な経済の創造に投資する(IMFにより実行可能)。

・再生可能エネルギーや医療技術の特許に対する知的財産権の免除(WTOにより実行可能)。

不平等の是正:多くの国において、10%の富裕層の所得が国民所得の50%以上を占めている。これは、社会が深く機能不全に陥り、二極化する元凶となる。以下はその対応策。

・累進課税、及び「国際的な税の抜け穴」の閉鎖

・国家の富を公平に分配するための市民ファンド(Universal Basic Dividend)*

(*訳注:「ユニバーサル・ベーシック・インカム」との違い は、 財 源 が 税金ではなく、企業利益からの拠出であること。)

女性のエンパワーメント:少女と女性の教育とエンパワーメントに大規模な投資を行う。例:「国連食糧農業機関」によると、小自作農に携わる女性たち全てが、有効なリソースへのアクセスを平等に得た場合、彼らの農作物の収穫高は20~30%上昇するとのことです。そうなれば、1億人から1億5千万人の人々が、もはや飢えに苦しまずにすむでしょう。以下はそのための対応策。

・すべての少女と女性の教育へのアクセスを向上させる。

・あらゆる機関で、指導的地位における男女平等を達成する。

食料システムの変革:工業的農業は、温室効果ガスの排出、森林破壊、土壌や生物多様性の損失、水質汚染などの大きな要因の1つとなっています。以下はその対応策。

・工業的農業に対して払われている有害な補助金をすべて撤廃する(最近 の国連の報告書によると、年間5400億ドルの農業補助金のほぼ90%が人と地球に有害であるとのこと)。

・食品廃棄物を減らし、野菜を多く含む健康的な食生活を促進する。

エネルギーシステムの変革:「今世紀中に地球の気温上昇を産業革命以前の水準から2℃以内に抑える」というパリ協定の目標を達成するには、2020年から10年ごとに世界の温室効果ガス排出量を約半分にし、2050年までにはほぼゼロにする必要があります。以下はその対応策。

・化石燃料を使用したエネルギーシステムを再設計し、段階的に廃止す る。

・エネルギー効率を高め、消費を削減する。

・再生可能エネルギーですべての電力をまかなう。

2. ガバナンスをトップダウンから共創的・対話的なものに転換する

これらの対策はすべて実行可能であり、この研究の基礎となるシミュレーション・モデルが示しているように、自己強化型です。また、必要なリソースも容易に入手可能です。この、惑星の緊急事態に関連した転換を達成するためのコストは、世界のGDPの2~5%と見積もられています。それに比べ、戦争のような国家的緊急事態においては、各国政府はしばしばGDPの50%までをも費やします。では、リソースも解決策もあるのに、なぜ私たちはそれを実行に移さないのでしょうか?

その答えは、ガバナンスに関連しています。現在の意志決定構造は、多くの場合、組織化された利益集団(独占産業に見られるように、組織化しやすい小さな集団であることが多い)の偏った影響のもとに機能しています。そうした利益集団が、組織化できない大きな集団(すべての市民の利益のために働く人たち)よりも優遇されています。また、発言力のある市民(現在の世代)の方が、発言力のない市民(将来の世代や地球そのもの)よりも優遇されています。一部の利益集団は、変革の推進に大きく反発しました。2000年代初頭の米国で、炭素税に対する国民の支持を覆すことに成功した、気候変動否定産業の創設と巨額の資金提供は、その一例です(出典:『Dark Money』)。

つまり、私たちが直面している問題は、G20諸国の国民の4人に3人が社会的不平等や気候変動と闘うための変革を支持しているにもかかわらず、現在のガバナンスシステムがそれを実現できていないことです。今、私に希望を与えてくれるのは、政府や企業における意志決定者の多くが、こうした変革が今必要であることに内心同意している、ということです。彼らは個人的に「未来の異なるストーリー」の一部になりたいと考えています。しかし、その方法がわからないのです。

すべてのガバナンスは、権力の幾何学に関わるものです。民主主義とガバナンス・システムを再設計し、進化させることが必要です。今日ほとんどの国で広く共有されている変革への願いを、集団的な意志決定に結びつけるような方法で。

この新しい領域に踏み出す最初の一例として、今チリで起こっていることがあります。チリでは、8割以上の国民が新憲法を支持していました。しかし、その後、先週の日曜日に行われた新憲法案に対する投票では、60%以上の人がその案を支持しませんでした。つまり、さらなる対話と、真の対話を促すより良い支援インフラが必要なのです。人類と地球の繁栄に貢献する形で未来を再想像し再構築するためには、異なる視点やイデオロギーを超えて、共に考える必要があります。チリで起こっていることは、他の国々でも起こるであろうことの前兆です。社会秩序の崩壊(潜在的な崩壊であれ実際の崩壊であれ)が起こり、その後、新たな社会契約の再交渉と再想像が始まります。

その根底にある問いは、民主的な意志決定及びガバナンス構造を、より分散型、対話型、そして直接的なものにするために、どのように進化させることができるか、というものです。現在のガバナンス・システムをどのように補完し、進化させることができるかを示す有望な例が、「市民会議」の広範な出現に見られます。

3.未来を創造するために、学びとリーダーシップを変革する

これを実現するためには、教育と生涯学習のシステムを変革する必要があります。私たちは多くの場で、まる暗記からより学習者中心の方法へと進化してきましたが、教育は依然として個々人の学習と能力開発に焦点を当て続けています。私たちは、未来を共に感知し形成していく能力を培う教育モデルからは程遠いところにいるのです。

図2: システム進化の4つの段階、4つのOS

図2は、教育・学習機関の進化(一番左の欄)が、他のすべてのセクター(健康、食糧、金融、開発、ガバナンス、市民社会)の進化といかに合致しているかを示しています。これらすべてのセクターで、同じストーリーが展開されていることがわかります。

・「生産」と「効率」ベースの古いOSから、「成果」と「ユーザー体験」ベースの新しいOSへの移行。

・「再生」と「生態系への認識」をベースにした、未来の出現を促すOSへの移行。

これらの根本的な転換をひとつひとつ実現していくためには、新たなルールに従った新たなOSを採用する必要があります。こうした転換は、異なる思考パラダイムと一連の協調能力に基づくものとなります。

今日、システム進化における最も重要な課題は、2.0や3.0の対応メカニズムのままで、4.0タイプの問題を解決しようとしていることです。

そこで、学びとリーダーシップの話に戻ってきます。4.0への移行を阻む障壁は、主に以下の3つです。

・システムを共に形成し、共に主導するために、関連するすべての人々を結集させる制度的インフラの欠如

・様々なステークホルダーの意識を、サイロ*からシステムビューに、つまりエゴからエコに移行させるためのリーダーシップ・ツールや能力の欠如。

(*訳注:他との情報共有や連携がないために孤立して狭くなった視野)

・上記のような事柄に資金提供し、規模を拡大させるための財政メカニズムの欠如。

再び問いますが、「知ること」と「行動に移すこと」の間のギャップを埋めるための道筋はどのようなものでしょうか?それは、この3つの障壁を取り除くことです。私たちは、4.0の活動方式へとシフトする必要があります。経済、ガバナンス、リーダーシップ・システムを真に変革し、「互いと、そして地球と調和して生きたい」という人間共通の深い願いを実現するために。

しかし、こうした変革は自然には起こりません。新たな社会的学習インフラによって支援された場合にのみ、起こり得るのです。このようなインフラは、場所・地域ベースで、広げていくことが可能で、個人の変容をシステム変革の入り口とするものです。

徹底して存在する輪

これを書き終えたとき、私の列車はとうにチューリッヒに到着し、帰りの飛行機がボストンに向けて降下を始めていました。最後に、この問いで締めくくりたいと思います。「これ」は本当にうまくいくのでしょうか?「これ」とは、“滅びゆく1つの文明から生まれくるもう1つの文明への移行” を意味します。

私たちは、前途が容易ではないことを知っています。今世紀の我々の問題の解決策が「大きな政府」でないことも「巨大資本」でないことも知っています。「巨大IT企業」でもありません。もちろん、政府、資本、テクノロジーの3つは必要です。しかし、私たちが最も必要としているのは「私たちの関係性の質における深いシフト」なのです。それが、炎を守り、炎の番をすることを可能にします。

システムが崩壊するとき、私たちに残されるものは何でしょうか?お互いの存在です。私たちの関係性です。母なる自然とどう関わり、互いとどう関わり、そして生まれつつある自分自身とどう関わるか、です。これらが、炎を守り、世話し、育てていくための3つの源なのです。

それが本当なら、私たちの集団としての変容の旅を前進させる最も重要なポイントは、リーダーや市民やコミュニティーの関係性が、有害なものから変容を促すものへと、搾取するあり方から再生的で治癒的なあり方へと変化するよう支援する、インフラの構築にあります。

Presencing Instituteは過去15年以上にわたり、さまざまな社会領域において、こうした「意識に基づいた学びのインフラ」を構築し、その規模を拡大する実験を行ってきました。そこには、地球上のあらゆる場所から、そしてあらゆるセクターから、二千以上のハブに20万人以上のチェンジメーカーたちが参加してきました。興味を持たれたならば、今月末から始まる無料のオンラインプログラム、u-labにぜひご参加下さい。このプログラムは、u-school for transformation への入り口という位置づけです。u-school for Transformationは、科学、意識、そしてシステム及び自己変革の実践といった分野を結ぶ、マルチローカルな学習インフラのプロトタイプです。

私たちは皆、行動を起こしたいと思っていますが、どうやって起こせばいいのかわからない、ということもままあります。私たちにできることのひとつは、出現しようとしている未来を感知し招き入れる、新たなインフラをプロトタイプすることかもしれません。存亡の危機に瀕している今、私たちの、そして地球の最高の未来の可能性の炎を守るため、互いをサポートする場として「徹底して存在する」小さな輪を形成することによって。「徹底して存在を共にすること」で、人と人とのつながりが深まるこのような場が、癒しをもたらし、新しい文明が生まれるための土壌、種となるのです。

興味のある方は、こちらもご覧ください。

・9月-12月:u-lab

u-school for transformation

冒頭のビジュアルを提供してくれた同僚のKelvy Bird、そして草稿に有益なコメントをくれ、編集をほどこしてくれたBecky Buell、Antoinette Klatzky、Eva Pomeroy、Maria Daniel Bras、Dorian Baroni、Emma Paine、Stefan Dayに感謝を捧げます。

オットー・シャーマーの他のブログはこちらのホームページ

※以下は、日本語話者のためのご案内です。ちょうど9月からコースが始まります。日本語で共に学びませんか?

・「u-lab 1x 2022」の登録方法はこちら https://note.com/shirasan41/m/m7ed6f835e524

・u-lab1x 日本語話者用Facebookグループはこちら https://www.facebook.com/groups/468403428472114

*最後に、この和訳の草稿を丁寧にチェックしてくれた宇野朗子さんに感謝を捧げます!

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