現れつつある第三の選択肢:ダーク・マネーとダーク・テックから民主主義を取り戻す(オットー・シャーマー)
2024年についての7つの見解とこれから
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2024年、世界の20億人以上が国政選挙に投票した。その結果から、今年私たちは全体として、そして特にアメリカの選挙から、何を学んだであろうか?
以下の7つの見解と考察において、私は今かわされている広範な議論の一部として、私自身が最初に読みとったことをいくつか紹介したいと思う。これらの指摘は、「意識に基づくシステム変革」という観点からの、私自身の経験を反映したものだ。「意識に基づくシステム変革」とは、深い変化を起こすためには “地上の” 社会システムだけでなく、社会的土壌のより深い状況にも焦点を当てる必要がある、という考え方である(図1)。社会システムについて語るとき、人々は通常、観察可能で目に見えるもの(プロセス、手順、構造、行動パターン)について言及する。しかし私が言う社会的土壌とは、目に見えにくい内的な状況、つまり表面下にあるもの、意識(何に注意を向けているか、および意図)の質、そして私たちの活動に影響を与える人間関係の質、のことである。私たちの人間関係の総体である社会フィールドは、これら2つの要素、すなわち「社会システム」と「社会的土壌」の組み合わせなのだ。
この考察の以前のバージョンは、Humanistic Management Journal (special issue on Awakening to One Another and the Earth: Awareness Practices and Systems Change)に掲載予定である。
- DINO(Democracy in Name Only 名ばかりの民主主義): ダーク・マネーとダーク・テックのとんでもない同盟
最近の世界各国の選挙における主な傾向は、以下の3点に要約できる。
・90%以上の人々が民主主義を支持している。
・しかしまた、50%以上の人々が、たとえそれが重要な民主主義制度を弱体化させる結果になるとしても、真の変革を約束するポピュリストに投票することを望んでいる。
・ほとんどの国民は、選択肢があれば独裁的な政権には投票しない。たとえばインドでは、ナレンドラ・モディ首相が議席の過半数をとれず、連立政権を樹立することになった。
このような観点から見ると、つい最近のアメリカの選挙は異常なものではなかった。ざっくり言うと、先進諸国の現政権は、今年のあらゆる選挙で有権者の支持を失った。人々は真の変化を求めているのだ。候補者の一人だったトランプは、まさにそれを約束する綱領を掲げて立候補した。もう1人のハリス候補は、現状維持を全面的に掲げた。アメリカ人の66%が給料ギリギリの生活をしている中で、政府がガザでの大量虐殺戦争(3万人の女性・子どもを含む4万3千人以上がこれまでに死亡)を支援し続けているにもかかわらず、である。
選挙結果が示唆しているのは、アメリカ人の大多数が独裁政治を望んでいる、ということではない。実際、2024年にトランプに投票した人の数は、2020年にトランプに投票した人より180万人多いだけであり、比較的小幅な増加である。より興味深いのは、ハリスに投票した人は2020年にバイデンに投票した人よりも約800万人も少なかったということだ。非常に珍しいのは、多くのアメリカ人が、国政選挙についてはどちらの候補者にも投票しなかった一方、それぞれの地域の地方選挙候補者には票を投じたという事実だ。これは、彼らが国政選挙で提示された2つだけの選択肢に強い不満を抱いていたことを示唆している。
このことは、民主主義について何を物語っているのだろうか?民主主義は世界的に緊迫状態にあり、大量の誤情報が出回っている。そのため市民は、直面する現実を認識し対応することが難しくなっている。
大規模な二極化が妨げとなり、コミュニティが直面している共通の懸念についての重要な会話ができなくなっている。民主主義機能の基盤を失ったこうした社会は、崩壊するか崖っぷちに向かうかのどちらかである。
つまり、民主主義は攻撃を受けているのだ。特にアメリカでは、民主主義のプロセスを弱体化させている2つの主要な勢力がある。ひとつは「ダーク・マネー」(Mayer 2016)だ。一般市民には見えない形で使われ、事実上、各候補者の優先事項や綱領を形成し操作している資金である。もう1つは「ダーク・テック」(dark tech)と呼ばれるもので、一般市民には見えない方法で使用され、市民の視点や投票行動を形成・操作するテクノロジーである。
ダーク・マネーが政治の供給側(アジェンダや政策綱領の作成)を汚染している一方で、ダーク・テックは民主主義プロセスの需要側(市民の認識や好み)に同様の影響を及ぼしている。
私たちが目にしているのは、民主主義の土壌が劣化しつつある光景である。このようなシステムをDINO(名ばかりの民主主義)と呼ぶこともできる。事実と公的な議論に基づかない民主主義は、民主主義ではないからだ。上に示した図1の言葉を借りれば、その土壌と根系が劣化しているのだ。
2. 耳を傾けないことで資金調達が成り立っている場合、耳を傾けることは難しい
2つ目の見解は、1つ目の見解に続くものである。政権を維持するために、自分の時間の少なくとも半分を資金集めに費やさなければならない政治家には何が起こるだろうか? 彼らは結局、億万長者やその代理人たちと交わることになる。つまり、自分を選んでくれた有権者、自分が奉仕すべき有権者の声に耳を傾ける時間がほとんどなくなるのだ。市民の声に耳を傾け、市民と対話することは、言うまでもなく民主主義プロセスの土壌と根っこだ。
民主党、そしてハリス候補は、人々の声を聞かないことを見事に体現している。「ミスを避け、周囲のコンサルタントの指導に従い、自分が嫌う信念構造を持つ人々と関わらないこと」を優先するなら、当然、多くの若い有権者の支持を簡単に失うことになる。ガザ空爆支援政策を頑なに変えようとしなかったのは、その失敗の一例にすぎない。それに加えて(多くの人がディック・チェイニー前副大統領及び国防長官を戦争犯罪人とみなしていることを知りながら)チェイニー家のご機嫌とりをするならば、若い有権者たちの両親や祖父母の支持までも失うだろう。
しかし、もっと重要なのは、民主党陣営が語らないと決めたことだ。 多くのアメリカ人が苦しんでいることをなぜもっと認めなかったのか?ハリスの綱領からなぜ「万人のための医療」が削除されたのか?すこぶる不人気な戦争に、なぜ資金を提供し継続させ続けなければならないのか? AIやソーシャルメディアに、すべての人の幸福を守るガードレールをなぜ設置できないのか?
こうした選挙の争点はすべて、アメリカの有権者たちに非常に人気があったはずだ。しかし、これらのテーマについて沈黙した理由を説明するのは難しくない。10億ドルを集めるために、アメリカ市民の声には耳を傾けず、代わりにビッグ・テック、ビッグ・マネー、ビッグ・ファーマ(製薬会社)、ビッグ・オイル、軍産複合体、億万長者クラスの声に耳を傾けなければならないとしたら、アメリカ市民の真の優先事項を反映する政策綱領を作ることは難しいだろう。
従って、私の2つ目の見解は単に次のようなものである。(ハリスに限らず)民主党陣営は、自分たちの政治的バブルの外に住む国民の大多数との接触を失ってしまった。つまり、耳を傾けなかったのだ。有権者の声に深く耳を傾けなければ、有権者の声を感じることはできないし、有権者の声を感じなければ、選挙活動はその道専門の進歩主義者以外の人々の心には響かない。
3. 経済問題
「要は経済なんだよ、わかってないな」過去の政治キャンペーンで使われたこの言葉が、今回も真実であることが証明された。有権者は、自分たちの多くに苦難をもたらしている経済的現実について、前向きにとらえるべきだなどと説教されたくはなかったのだ。耳を傾けてほしかったのだ。真剣に受けとめてほしかったのだ。自分たちの声を聞き、認めて、それに対処するような優先政策や候補者を提示してほしかったのだ。地球のCO2排出量削減と気候不安定化への対応に関する最近の議論(COPプロセス)が、同じ結論に達しているのは偶然ではないだろう。合意や約束から、実際に実行していく段階になるにつれて、焦点は政府からビジネスへ、そして野心的な目標や目的達成のために協働するセクター横断的な同盟へと移っていく。
増え続ける(半)独裁的な国々に住む変革者たちに、市民社会が攻撃を受けている際にはどうするのかと尋ねると、彼らは何と答えるだろうか。彼らは、意味のあるインパクトと活動を生み出すための重要な手段として、ビジネスと教育に目を向ける、と答えるのだ。
善き意志の力としてのビジネスは、今後数年間で最も重要な活動場のひとつとなるだろう。ビジネスは、社会において生産機能全体が集結する唯一の場所なのだ。NGOや政府を含む他のあらゆるセクターは、それについて語るだけである。しかし、ビジネスでは実際にそれが起こっている。もし環境保護局(EPA)が内部から解体され、政府の規制が、それらを実施・執行できる人たち全てを解雇することで骨抜きにされてしまったら、どうなるだろうか?アメリカでそれが起こるのは、時間の問題である。その場合、ポジティブな変化を起こしたいとしたら、どこに行けばいいのか? 地方政治や州政治に関わり、教育に関わり、ビジネスに関わり、善のための力で協力し合えるような使命を掲げた企業を作るのだ。
この一連の見解の要点はシンプルである。今後数年、数十年にわたる社会のポジティブな変革にとって、経済変革が絶対的な鍵を握るということだ。この視点から見れば、アメリカの選挙結果は近年の進歩的運動に対する痛烈な批判としてとらえることができる。これらの進歩的運動の多くは、結局何をしたのだろうか? 新しい文化規範や政府の規制を作り出したと言える。その中には本質的なものもあれば、おそらく少し行き過ぎたものもある。しかし、大抵の場合そこに欠けているものは何か?それは、作り手の視点である。つまりそれは、増え続ける規制や官僚主義という枠の中で活動しなければならない最前線の専門家たちの視点である。医師、教師、農家、開発業者、建設業者、社会責任を果たす小規模な銀行の銀行家など、要するに、経済的繁栄と価値を生み出すために実際に行動している人々と話をすると、拡大し続ける官僚主義的な規制と、そうした人々の生活実態との間に、ますます大きな解離が生じていることが見えてくる。
では、過ぎゆく2024年からの、システム変革に対するメッセージは何だろうか? 米国では、これらのシステムの多くが内部から解体される可能性が高い。環境規制。金融規制。労働規制。基本的人権。他にもたくさんある。少なくともある程度は時計の針を戻すことになり、その結果私たちは、まったく生じるべきでない苦しみを目の当たりにするだろう。では、私たちに何ができるのか。私たち皆が望む変化のために、私たちにやり続けられることは何だろうか?
おそらく重要な答えのひとつは次のことだろう。トップダウン、つまり私たちが望む変化を上から規制することから、ボトムアップ、つまり私たちが望む変化を共同で生み出し、具現化する方向にシフトすることだ。政府が社会変革の主役になるのではなく、企業、市民社会、そして各機関のリーダーが、ボトムアップのエコシステムとムーブメントという形で、共通の意図と懸念のもとに協働することを選択しなければならない。もちろん、必ずどちらかを選ぶべきだというわけではない。しかし、変革の重点は、場所や地域を超えたボトムアップのクロスセクターによる、イノベーションと変革のための集団能力の構築に移っていくだろう。結局のところ、政治で起こることは社会運動や感情によって形成され、社会運動で起こることは現場で起こることによって形成される。つまり地域や地方やその他の場所で実現させたいことを、私たちが生きた事例として生み出す能力があるかどうかにかかっている。
4. 第3の選択肢は存在する
先週投票に行ったとき、そこには2つの選択肢しかないように思えた。
それは「not(…しない)」と「again(再び)」の2択だ。(1)「我々は戻らない」と(2)「偉大にするのだ、再び」である。最後の”再び”というのが、このスローガンの中で最も重要な言葉だ。
では、この2つの選択肢の何が問題なのか? ひとつの選択肢は現状から抜け出せないでいる。もうひとつは、後戻りすることで現状を打破しようと提案している。
明らかに欠けているのは、出現しつつある未来に意識を傾け、そこから行動することで現状を打破し変革する、実行可能な第3の選択肢である。惑星を癒し、社会を再生させるための多くのムーブメントは、出現しつつある未来を念頭に活動している。そしてそれは、本質的に左派でも右派でもないムーブメントなのだ。出現しつつある未来に意識を向け、感じ取り、それを実現させることは、20世紀の政治的カテゴリーとは相いれない。つまり、そのような旧来の区分からは独立している。
図2は、2つの異なる活動様式を描くことでそれを示している。思考、ハート、意志が「開いている状態」と「閉じている状態」である。
長々と述べてきたが、先週の選挙は、明白な理由により(図2の上半分に描かれている)「不在(欠落)サイクル」の大規模な増幅をもたらすだろう。より多くの否定(気候変動の否定、ガザやウクライナの戦争に対するアメリカ・ヨーロッパのバブル外にいる大多数の人々の見方の否定、など)、より多くの “感じずに済ませること”(大量国外追放や政治的報復による分極化、および自分とは異なる存在と見なして排除すること)、より多くの他者(移民、共産主義者、大学)非難、そしてより多くの自然破壊、制度への信頼や互いへの信頼の破壊、心身の幸福の破壊と人命の破壊(戦争)などだ。トランプ政権が、国務省の外交戦略とは異なるアプローチを提供できるかもしれない、というのは最後の点である。国務省は過去数年間、ウクライナという友好国を誤った方向へ導き、国の大部分を破壊し、100万人以上の犠牲者(死傷者)を出す代理戦争という消耗戦に巻き込んだ。それはウクライナにとって何も得るものがなく、西側の軍産複合体を強化し、ロシアと東側(中露同盟)におけるプーチンの独裁的支配力を強化しただけであった。中露同盟は、戦争開始時よりもいっそう堅固になった。バイデンが週末に下した決断は、アメリカのミサイルによるロシア内部への長距離ミサイル攻撃を容認するというもので、まったく無責任としか言いようがない。
要約すると、現在、多くの制度が内部から骨抜きにされ、あるいは解体される時期に差し掛かっている。それがどの程度起こるかは、多くの要因に左右されるだろう。しかしその反面、旧来の政治的な境界線を越えて、地域社会のリーダーや市民たちが協力し合い、自分たちの常識や共通の関心のもとに自発的に組織化し始める、というような意識の目覚めも起こるかもしれない。その多くは、複数の都市、州、企業、地域といった、ローカルなレベルで生じるだろう。またその多くは、自然発生的に生じるだろう。フォーマルな連携がなくとも、市民としての責任感に触発されて動くのだ。最初のトランプ政権において私たちが目にしたのも、「複数の制度がねじ曲げられつつも、壊されなかった」という意外な結果だった。人間の精神は、直線的な思考ではしばしば予測できないような形で現れるものなのだ。
5. 一貫性のある島々は、「取るに足らない」という幻想と闘うことができる
では、どうすればいいのか? 新しい種や芽はどこにあるのか?自然界と同じように、それらは旧体制の文脈の中から生まれ、成長する。それらは世界中で、生きた事例として現れている。しかしそこには、それらが成長し、再現されるのを妨げる3つの主な障壁がある。それは、取るに足らないという幻想、つながりの欠如、勇気の欠如である。
「取るに足らないという幻想」とは、個人や小さなグループの行動では、より大きなシステムを変えることができない、と考えてしまうことである。しかし、真の変革はほとんどの場合、多くの小さな行動によって成し遂げられる。その意味で、ノーベル賞受賞者の故イリヤ・プリゴジンの次の言葉は非常に参考になる。
あるシステムが平衡状態から遠く離れているとき、そのカオスの海に浮かぶ「一貫性を保った小さな島々」は、そのシステム全体をより高次の秩序へと引き上げる力を持っている。
プリゴジンは、非線形システムにおける分岐点についての考え方を明確に述べている。その分岐点とは、小さな諸変化がシステムを一方向に傾けることにより、大きな変化を生み出すことができる時点のことだ。私は、最も小さな 「一貫性を保った島 」とは、何に意識を向けるかを再調整し、意図を再調整することだ、と信じている。私たちの意識の方向性が意図と一致すれば、明晰さを放つことができ、それが主体性(つまり、私たちの最高の未来の可能性を実現させる行動)を引き出し始める。
もちろん、「カオスの海に浮かぶ」という部分については、私たちがカオスによる統治の時代に移行している以上、いくらでも体験できる。そうした状況の中でこそ私たちは、自分たちの主体性を、個人としても集団としても活性化させるような「一貫性を保った島」を作り出す能力を開発する必要があるのだ。
第二の障壁である「つながりの欠如」は、私を次の見解へと導く。
6. 「一貫性を保った島々」は「一貫性を保ったエコシステム」へとつながる
プリゴジンの言葉を高く評価する一方、私が長年見てきたのは、数多くの「一貫性を保った島々」の努力が、より大きなシステムを高次の秩序へ引き上げるまでには至らなかったという状況だ。
変化を生み出すためには、「一貫性を保ったの島々」を互いに、そしてまだ完全には形成されていない島々とも結びつける必要がある。こうしたつながりは、生成的なホールディング・スペースの助けを借りて作ることができる。それが、島々を「一貫性を保ったエコシステム」へと編み込み、包括的なスケールで意識の方向性、意図、主体性を再調整するのだ。
これは、私が個人的に何度も目にしてきた、魅力的で、驚くほど有機的なプロセスである。それは、変革者、リーダー、市民からなる大規模なエコシステム内およびエコシステム間で、ポジティブなエネルギーの膨大なリソースを活性化させることができる。私はそうしたプロセスの共同ファシリテーターを、以下のような機会に行ってきた。先週はブラジルのリオ(G20)のプレオープニングイベント、およびサンパウロ(セクター横断型)で行い、今年初めには別の同僚たちとチリ(セクター横断型)、インドネシア(新たな政権および内閣)で行った。下の写真は、私たちが直面しているさまざまな課題のなかで、いかに多くの未来の種や土壌構造が形作られ始めているかを示している。
プレゼンシング・インスティテュートは、セクターやシステムを超えてつながりを作り、主体性を発展させることに活動の重点を置いてきたが、ビジネスのエコシステムにおいてもそれは効果を発揮する。たとえば昨年、私たちはヨーロッパに本社を置く、あるグローバル・ビジネス・グループのトップ80人と共同で活動を行った。このグループが目的として掲げている「善の力としてのビジネス」が強化されたのは、体系的なプロセスを通して、このリーダーたちが仕事や地域を越えて、深く個人として、また共通の目的をもった仲間として結びつき、私たちが今直面している惑星の危機を共に感じとったからだ。
私がこれらの経験から学んだことは、次のようなことだ。分極化とアブセンシング(不在/欠落)という現在の状況において、エコシステム全体を活性化させるスペースを保つには、もっともっと多くの意図的な努力とエネルギーが必要だ。しかし、そうすることで結果はより早く現れ、より大きなものになる。プレゼンシング・インスティテュートは、そうした状況を作るべく、全力を注ぐことにした。そのようなエコシステムが現れてくる時に、それを育み、活性化させ、サポートするために、ツール、場所、実践方法を提供するのだ。
7. 「一貫性を保っている島々」は、個人や集団の主体性を引き出すことができる
たとえば、私たちが提供しているu-labプログラムの参加者たちがよく口にする第三の障壁は「恐れ」である。どうすれば、無条件の勇気、つまり「行動への確信」の真の源泉へと一歩踏み出す力を強められるだろうか?恐れの力に正面から立ち向かっても、たいていはうまくいかない。うまくいくのは、a)人々が互いに心を開いてつながれるような安全な器(うつわ)を作ること、b)恐れの要因を薄れさせるような、より深い目的と情熱の感覚に入り込むこと、である。最も重要だと信じていることに打ち込めば打ち込むほど、恐れに基づく状況は消えていく。
新しい社会OS(オペレーティングシステム)のためのプロトタイプとしての社会フィールド
組織における「一貫性を保った島々」は、一見取るに足らない小さなものであることもあれば、大きなものであることもある。システムの端っこにあったり、組織のトップにあったり、最前線にあったり、中間管理職にあったりする。どこにあっても重要なのだ。それらは地域ベースのローカルなものであるかもしれない。それらはすべて、ビジネス、ガバナンス、そして学びとリーダーシップのための新しいDNAを体現している。
そうは言っても、搾取から再生へ、エゴからエコへ、そして(過去に支配された)反応的パターンから、現れつつある未来とつながり、それを具現化しようとする共創的パターンへ移行するために、私たちが着手すべき大胆な取り組みとは何だろうか?
私は、少なくとも3つの主要な社会システムをアップグレードする必要があると考えている。それは、経済、民主主義、学習システムだ。
・私たちの経済は、エゴ・システムからエコ・システム意識へとシフトする必要がある。
・私たちの民主主義と統治システムは、現在の膠着状態を打破して、より対話的で、データに基づき、分権化され、直接的なものになる必要がある。
・私たちの学習システムは、テストのための教育から、人類繁栄のための教育へと変化しなければならない。現れつつある未来を共に感じとり、共創造するための、深い能力を活性化するようなものになる必要がある(これは、私たちプレゼンシング・インスティテュートがOECDおよび彼らのハイパフォーミング・エデュケーショナル・システムグループとともに立ち上げようとしている、複数の国によるイニシアチブである)。
言い換えれば、必要なのは単なる別のアプリや政策ではない。私たちのOS(オペレーティングシステム)全体を再生し、再起動させる必要があるのだ。成功を収めている「一貫性を保った島々」がプロトタイプ化され、探求され、それが拡大して「一貫性を保ったエコシステム」を生み出したときに、まさにそれが起こるだろう。その結果、深遠な再生と変革がもたらされる。それは、私たちに共通する「意識の方向性」と「意図」に一致したものになるはずだ。
こうした深い社会転換を進めるために、私たちは社会的土壌を耕す必要がある。農民が土地を耕すために鋤やその他の道具を必要とするように、社会変革の担い手やリーダーには、社会の土壌を耕すソーシャル・リーダーシップの道具が必要なのだ。それは次のようなものである。
・気づくこと:意識の矛先を自分自身に向ける
・生成的な聴き方:頭と心を大きく開いて耳を傾ける
・生成的な対話:システム自体が自らを感じとり、理解し、変化できるようにする
・プレゼンシング:今、この瞬間に最高の未来に出会うことで、深く感じとる
・共想像:自分たちが創造したい未来を明確にする
・共創:行動することで未来を探求する
・エコシステム・ガバナンス:共通の意図および共通の意識の方向性をもとに運営すること
要するに、現在の複合危機が求めている深い変革の鍵は、社会的土壌を耕すことにある。私たち一人ひとりが、その土壌を耕す庭師や農夫になることができるし、すでになっているかもしれない。近刊の『プレゼンシング』の中で、私たちはそのための核となる実践について概説している。
次回のブログでは、これまで述べてきたことを踏まえ、3つのシナリオと可能な道筋についてさらに探ってみたい。
1. 現状維持主義:これまで通りの資本主義と民主主義
2. ネオ封建主義:シリコンバレー・オリガルヒ(政治的影響力を有する財閥)のごく少数のプラットフォームによる、米国政府の所有および世界支配
3. 現れつつある未来を感じとる:共通の意図、惑星の癒し、社会の再生を軸とした組織化
それぞれの道筋は、現状に裏付けられたものである。どの道を選ぶかは、個人として、そして集団としての私たちにかかっている。
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草稿への有益なフィードバックをくれたBecky Buell, Ditri Zandstra, Eva Pomeroy, Janine Saponara, Katrin Kaufer, Laura Pastorini, Martin Kalungu-Banda, Patricia Bohl に感謝を捧げます。
さらに詳しい情報をお知りになりたい方はこちらをどうぞ: Presencing Institute, u-school.org, ottoscharmer.com, Journal of Awareness-Based Systems Change
参考資料
Scharmer, C. O., & Kaufer, K. (2025). Presencing: Seven Practices for Transforming Self, Society, and Business. Berrett-Koehler Publishers.
Mayer, J. (2016). Dark Money: The Hidden History of the Billionaires Behind the Rise of the Radical Right. Doubleday.
Scharmer, C. O. (2018). The Essentials of Theory U: Core Principles and Applications. Berrett-Koehler Publishers.